Wiley 〜グライムを定義した人物

  • 2016.06.11 Saturday
  • 11:50


数年前、「Dizzee RascalがJay ZならばWileyはNasだ」という上手い例えがNoiseyの記事に載っていたことがあった。ジャンルや国境を越えて器用に活躍したというタイプではないが、このジャンルを音楽・内面両方で定義づけ発展に寄与した人物はこのWileyなのだ。



まず、彼が「Eskibeat」と名付けた、ロウで、時に凍えるほどに無機的、そしてTVゲームの効果音を思わせる奇妙なビートは、まさにそれさえ聴けば「自分はいまグライムを聴いていると自覚できる」ほどにグライム特有なもので、未だに主流なスタイルとして機能している。また、そのロウな世界観はMVにも影響を与えており、一昨年のMOBO Awardでベスト・ビデオを受賞したSkeptaの「That’s Not Me」は、わざと経年劣化したようなフィルムで撮られ、費用もわずか80ポンドしかかけられていない。そしてグライムの、ヒップホップのそれよりも極端で、日本で例えるなら「〜丁目」に当たるくらいまで極限までフォーカスされた地元意識も、早くから「Bow E3」という自身の地元とその郵便番号を自らの象徴として用いてきたWileyが作り上げたものといえる。




「グライムが再び盛り上がっている」とはいうものの、そのスタイル自体は当初のそれと大きくは変わりないのではないかと感じている。それも無理はない。グライムというまだ15年にも満たないジャンルにおいて、ここ数年台頭してきた若手MCたちは少年期あるいは思春期の多感な時期をグライムに夢中になって過ごして育った最初の世代なのだ。Wileyは、その彼らが忠実に辿るグライムの「基本」を作り上げた人物として今でも最も支持されている。
 

The New Wave of GRIME 〜グライム/UKヒップホップで2015年起きたことと台頭する新世代のMCを知る (3)

  • 2015.12.02 Wednesday
  • 21:00
〜"NEW WAVE"がリアルであることを証明する2015年の10の出来事-〜

⇒(1)はこちら

 着々とチャートでも結果を残し始めたニュー・ウェーブ

いくら「カニエやドレイクが!」とか「他のジャンルとクロスオーバー」といっても、その「発展」に伴ってどのくらいリスナーが広まっているのかも肝心なところ。でも心配いりません。既に昨年、ボクサーなど別のキャリアを追求しながら長らく活動を休止していたMeridian Danのカムバック・シングル「German Whip」が13位に登場したのをはじめ、Lethal Bizzle「Rari Workout」が11位、 Skepta「That’s Not Me」が21位、など着々とグライムMCたちのチャートでの巻き返しが始まっていた。Meridian Danはグライム再燃の象徴的ヒット曲となった「German Whip」について、「俺は2006年辺りにボクサーになるためにMCするのをやめた。だからただ俺がMCから去ったそのころの音楽をやってるだけなんだ。コンシャスなんかじゃないし意図したわけじゃないさ。ただそれが俺の知ってるものってこと」と語るが、それが偶然にもグライムのルーツ的なスタイルを取り戻しているようにも思えるし、それはLethal BizzleやSkeptaのトラックにも当てはまる。これらのチャートでの好成績は、「EDMとクロスオーバーすることで生まれた特大ヒット」とはわけが違う。


そして、今年2015年。JMEのニュー・アルバム『Integrity』が11位、新人ラップ・ユニット、Krept & Konanのデビュー・アルバム『The Long Way Home』の2位、Bugazy Maloneの8曲入りEP『Walk With Me』の8位など、アルバムチャートでも続々と、しかも新鋭MCも含め顔を覗かせるようになった。ここまで示せばグライムが再びリスナーを取り戻していることはわかっていただけるであろう。



グライム・フリースタイルの歴史が動いた!Stormzy「Wickedskengman 4」がトップ20入り

グライムのチャートでの快進撃についてはこれを大きく取り上げないわけにはいかない。
 
フリースタイル、それはご存じのとおり「あらかじめリリックを用意せず即興でラップする」こと。しかし、フリースタイル作品はあくまでラジオで頻繁にかかることも少ないし、これまでフリースタイルによるヒット曲はあまり生まれてこなかった。
昨年から「Wickedskengman」シリーズと題したフリースタイルを発表してきたStormzyは、その第四弾「Wickedskengman 4」を彼にとってのもう一つの人気トラック「Shut Up」と合わせて初めてオフィシャル音源としてリリースした。すると、レーベル未契約のMCによるラジオでの強力なエアプレイなど得られていなかったこの曲が、全英シングル・チャートで初登場18位の成績を残したのだ。フリースタイルのシングルがトップ40に入ること自体2013年のJMEの「96 Fuckries」の一度のみだしそれもギリギリ40位だ。これは快挙以外の何物でもないし、StormzyのMCスキルがいかに支持を得ているかがわかるであろう。
  


このチャートでの結果を祝したパフォーマンスでマイクを渡されたファンの女性が「Shut Up」のラインを完璧にこなすこちらの動画も見てほしい

UKのブラック・ミュージックの祭典「MOBO Award」、今年はグライムMCが主役に

日本ではあまり知られていないかもしれないがUKには「MOBO Award」というブラック・ミュージック起源の音楽に特化したアワードがある。今年で20年目を迎えるこのアワードにも昨年からBest Grime Actの部門が登場するなど注目度が上がるようになってきた。今年はJMEの4部門SkeptaとStormzyの3部門など、実に全体の3分の一に及ぶノミニーを獲得したグライム・アーティストたちが賞レースをリードする形となった。


結果、Skeptaの「Shutdown」がベストトラックを、新人のStormzyBest Grime Act(2年連続)とBest Male Actの2部門を受賞、グライム界のゴッド・ファーザー、Wileyが今年初めて設けられた、アーバン/ブラック・ミュージックのパイオニアに贈られるPaving The Way Awardを受賞し、グライムが主役の賞となった。また4部門でノミネートされていた新人ヒップホップ・ユニット、Krept & Konanがベスト・アルバムなど2部門を受賞したのを含め「新世代」の活躍も目立った。



クレイグ・デイヴィッド、カムバック!Big Narstieらと共演

この秋、UK R&B界きってのスーパースターであり、ガラージや2ステップのトラックを数多くヒットチャートの上位へと送り込んだいわばこのシーンの「パイオニア」の一人でもあるクレイグ・デイヴィッドが5年ぶりにカムバックした。そのカムバック後最初の大きな露出の一つがこのBBC Radio 1XtraでのMistajamのショーへの出演だ。


そもそもこの番組はBBCの人気シットコム、『People Just Do Nothing』に登場する架空の海賊ラジオ局Kurupt FM(ガラージ、ドラムンベースが専門という設定)でお馴染みのGrindah、Beats、Decoy、Steveという面々がMistajamの番組を乗っ取るという企画。しかし、彼らのみで60分締めるわけにもいかず、番組中盤から徐々にゲストが登場することとなり、Big NarstieStormzyらMCに続いて、終盤の43分ごろに登場したのがクレイグ・デイヴィッドである(彼が登場した瞬間のBig Narstieのリアクションにも注目)。彼は自身のヒット曲「Fill Me In」をJack U with Justin Bieberの「Where Are U Now」のインストに合わせて披露する。クレイグは活動休止していた間、「Kurupt FM」にかなりの影響を受けていたとか。


しかも、この番組への出演をきっかけにBig Narstieとのコラボが実現、後に「When Bassline Drops」というタイトルの新曲としてリリースされたのだ。来る彼の新作には注目である。UKポップス界のスーパースターでもあるクレイグ・デイヴィッドがカムバックし、新世代グライムMC陣と共演し新曲で客演したというだけでも、いまのシーンのホットさを象徴していよう。


 中心地ロンドン以外からも多数登場する新世代MCたち

ここまで紹介してきたグライムの新しい動きも最初のうちはでも触れたような 「トラックメイカー」や「プロデューサー」の台頭が中心であった。しかし、既に何人か名前を出していることからもわかるように、昨年からは実力を持った「MC」の台頭が顕著である。その中でも特に強調したいのが、彼らがイングランド「各地」から名乗りを上げていることだ。

バーミンガム出身のMC、Safone

グライムというと、そのルーツをイースト・ロンドンの海賊ラジオ局とし、多くの人気MCがその地から登場してきたように、これまでこのジャンルの中心地はロンドンでありその事実は長らく変わることはなかった。しかし、この新世代のMCたちの出身地にはバーミンガム、マンチェスター、シェフィールドなどこの手のジャンルからは聞きなれない地名も多く目にする。ひとえにこれは初期の頃と違ってYouTubeやTwitterなどインターネットがよりグライムにとっての強固なインフラとなったこととが大きく関係しているかもしれない。これまでのグライムへのイメージを覆すようなこの動きも新時代を決定づけている重要な要素の一つに思えてならない。

 
次回は、その新時代のMCたちをいまグライムのみならずより広く盛り上がるブリティッシュ・ヒップホップのシーンと含めて紹介していこう。

The New Wave of GRIME 〜グライム/UKヒップホップで2015年起きたことと台頭する新世代のMCを知る (2)

  • 2015.12.02 Wednesday
  • 15:43
〜"NEW WAVE"がリアルであることを証明する2015年の10の出来事-ァ



Novelist、Stormzyが『BBC Sound of 2015』にノミネート



「Sound of …」。それは言わずと知れた、英国BBCが発表するその年の活躍が期待される新人のリストであり、その発表は年明けの恒例行事。先日、その2016年版が発表されたこのリストは、前年の12月に15組のロングリストが発表され、その中から選ばれたトップ5が年明け発表されるという方式。これまで、50 Cent、アデル、フローレンス&ザ・マシーン、サム・スミスなど名だたるビッグスターがデビュー前に「1位」として選出されている。



ちなみに左上がNovelist、二段目の左から2人目がStormzy



そんな、業界・音楽ファン大注目のリストに今年2015年は、Novelist、Stormzyという2人のグライムMCの名前が入ったのだ。グライムMCの名前が2組も入ること自体快挙であるが、後者Stormzyはその後見事3位に選出された。批評家や新人情勢に精通した業界人によって確実に「今年はグライムが来る」と予測されていたのである。こんな幕開けをしたからには、今年はグライムの動きに注目しようなんて思っていた人も少なくはないのではないだろうか。





カニエ・ウエストのBrit AwardでのステージにロンドンのグライムMCが集結



英国の音楽シーンにおいて「BBC Sound of …」の発表の次にやってくる大きなイベントといえば毎年2月に開催されるブリット・アワード。そして、グラミー賞と同じく授賞結果以上に注目を浴びるのは豪華アーティストたちによる華々しいパフォーマンスである。中でも今年一番注目が集まったのは来る新作からの新曲を披露することになっていたカニエ・ウエストのステージであろう。





そう、そのカニエのステージに実に25人のロンドンのグライムMCが登場したのである。カニエを囲むようにして現れた全身黒の衣装を身に纏った集団の中には、Skepta、Jammer、Shortyらクルー「Boy Better Know」のメンバーのようなベテランから、Novelist、Krept & Konan、Stormzyなどのニューカマーまで。そもそもこの共演はここで披露されたカニエの新曲「All Day」でも客演しているTheophilus London(セオフィラス・ロンドン)が式のわずか3時間前にSkeptaに「カニエがキミとキミの友人をたくさん連れてきてほしいと言ってるんだ」とメッセージを送ったことで実現したのだという。いきなりの招集命令に対してこれだけのMCを集められるSkeptaの人望もさすがといったところである(Novelistは当時「スケプタの家でチルしてたんだ」らしい)。でも何より、(1)でも少し触れたようにメインストリームな舞台とは無縁といっても過言でなかったグライムを、いまや世界で最も影響力のあるアーティストであり、ヒップホップの最高峰に居るカニエ・ウエストが持ち込んだことはかなりのインパクトであった。





 カニエだけじゃない!ドレイク、A$AP Mob…。グライム、遂にアメリカ進出か!?



そう、いまグライムに夢中になっているアメリカのラッパーはカニエだけじゃないのだ。



まずはドレイク。今年初頭に発表したアルバム『If You’re Reading This, It’s Too Late』収録の「Used To」(リル・ウェインのミクステ『Sorry 4 The Wait 2』収録の原曲にヴァースを付け足したヴァージョンである)では、スケプタの昨年のヒット・シングル「That’s Not Me ft. JME」のラインを引用しており、彼の名前をしっかりとクレジットに書き込んでいる。スケプタのことは相当気に入っているようで今年のOVO FestWireless Festivalでも共演している。ちなみにこの後スケプタは今年のMOBO Awardでのベストトラック受賞曲でもある「Shutdown」の冒頭でドレイクのVineのオーディオをサンプリングした。実は、ドレイクがUKのMCに興味を示すのはこれが初めてではない。遡れば2011年の傑作『Take Care』収録の「Cameras」の中でロンドンのラッパー、Sneakboのトラック「How You Mean」について言及したのを機に、彼をUKツアーの前座にもフックアップしているほか、2012年にはWileyと交流したことも。





そして、A$AP Rockyを中心にクルー、A$AP Mobの面々のグライム・シーンへのアプローチも特筆に値する。A$AP Mobは昨年のRed Bull Culture Clashでスケプタらを擁する人気グライム・クルー「Boy Better Know(略称:BBK)」らと共演特にA$AP Rockyは今春、ロンドンのグライム・シーンについて熱く語り、更に新作『At.Long.Last.A$AP』にはグライムの影響もある。こと、「A$AP Mobはグライムの重要性を認識した最初のUSのクルーだ」とも熱弁を奮っていた。その後7月には、スケプタ、ノヴェリスト、Piff Gangらをフィーチャーしたショート・フィルムを制作していたという報まであったほど。



現在USヒップホップ・シーンでトレンドの一つとなっている低音の効いたトラップ系のビートはBPMも近く、グライムで使われるビートと類似していることを指摘する声もあるし、いまはまさにグライムがUSヒップホップシーンとも親和性を獲得しているのかもしれない。そして例えばハドソン・モホークやラスティ、エヴィアン・クライストなど、最近のインストゥルメンタル・グライム・シーンとも近い場所にいる英国のDJとタッグを組んだカニエ・ウエストやダニー・ブラウンらの近作によって知らず知らずにグライム系のビートを聴きなれているリスナーもアメリカに多いであろう。グライムはその創世記において、カルチャーとして英国を超えてグローバルな成功を果たせずUSヒップホップ・シーンからもアテンションを惹けずにいた歴史がある。しかしこれらカニエ、ドレイク、そしてA$AP Mobらの動きを筆頭に、アメリカはやっとグライムを受け入れる準備が出来たのである。そしてそれは=「グライムはアメリカに進出する準備が出来た」ということでもある。そして、さきほどのカニエの件でもそうだったが、ここでもスケプタが大きな役割を果たしていることも加えて強調しておこう。





日本からも衝撃的(!?)なグライム・カバーが!



音楽や映画などエンタメ界においては何かと「ガラパゴス」といわれてしまいがちないまの日本。でも、グライムは例外!?なんて大袈裟なこともいえるかもしれない。日本にも実力のあるグライムMCはたくさんいるし、サウンド・クラッシュ(War Dub Japan Cupのサンクラリンクを)に似たイベントも行われたほど。そして、SlackkVisionistMurlo(マーロ)ら注目DJも今年来日しており、水面下ではリアルタイムな現地の動きと繋がってもいた。



しかし、今年の夏の終わりに投下された女性3人組ラップグループ、嫁入りランドによるMumdance(マムダンス)ft. Novelistの「Take Timeをカバーしたトラック「Now Loading」は、男性MCのトラックに聴きなれていたこともあり、その歌詞の世界観も含め原曲と全く違った味を感じさせた点でも衝撃的だった。アップされるやいなやベテランDJ、PlasticianRinse FMでかけたことでComplexのUK版Fact Magazineなどで紹介され、Noiseyではインタビューまで掲載された







他ジャンルとのクロスオーバーで更に発展するニューウェーブ・グライム



さて、(1) でグライムが「EDMとの結びつきでルーツを失いかけていた」と記したが、シーンはそのルーツを取り戻しただけでは「発展」しない。ここ7、8年のヒップホップがそうであったようにグライムも他のジャンルとのクロスオーバーを通して発展しているのだ。今年、その傾向がはっきりと映った動きがいくつか見られた。



例えばファティマ・アル・カディリ、イングズングズのアスマとダニエル、Jクッシュという4人の世界各地の気鋭のDJとMCが集ったFuture Brownが年始に発表したアルバムでは、グライム、あるいはガラージも一つの影響源として持つDJが集まったことでグライム・オリエンテッドなビートが聴けるだけでなく、ベテランMCのラフ・スクワッドのプリンス・ラピッドとダーティ・デンジャー、ロール・ディープからリコ・ダンらが参加している点にも注目出来る。





そして、ビートといえばここ2〜3年ほどはMCなしの「インストグライム」というスタイルも一つのトレンドとなっており、?でも触れたMumdance、Slackk、MurloそしてVisionistら新鋭プロデューサ―はFuture BrownだけでなくOPNことOneohtrix Point NeverやArca周辺とも関連付けられている。こうしたDJたちの進化に返答するかのように、彼らの奇抜なビートにNovelistなど若手MCがライムを乗せていくことでMCたちもスキルを伸ばし、DJ、MCが互いに刺激し合いながらグライムという一つのジャンルを発展させているとみることも出来るのではないだろうか。そんなところにも新たなグライムの発展具合が伺えるだろう。



そして、(1) でも紹介したがUKロック・シーンからもデビュー作がトップ10入り、マーキュリー・プライズのリスト入りも果たしてたパンクバンド、スレイブスは、スケプタの「Shutdown」をカバー、その後ライブでも共演を果たした(ここでもスケプタがジャンルの発展に一役買っている!)。更に彼らは既に取り掛かっているという次作について「グライムからの影響の強い曲が何曲かある」とはっきりと述べているのだ。グライム、次はロックとのクロスオーバーで新しい可能性を探るなんてことも?





⇒(3)~"NEW WAVE"がリアルであることを証明する2015年、10の出来事Α銑はこちら
 
⇒(1) はこちら






 

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