フランク・オーシャンに見る、"いま一度アートの歴史と混血の力を信じる"こと

  • 2016.10.01 Saturday
  • 18:10

 

アートはいままで幾度も現実社会の不条理に闘う勇気を与えてきた。アメリカではいよいよ共和党の正式な大統領候補にトランプが決まり、次のオリンピック都市だと騒いでいる東京の新しい首長は在特会と仲良し、そしてあらゆる地域でそうした分断を助長するようなテロ事件も起きている。2016年も何とも悲惨で、心が苦しくなるような一年であるが、ポップ・ミュージックはそうした状況にアートを通して立ち向かうことを決して諦めていないし、それこそが何とか救いとなっている。フランク・オーシャンもその筆頭である。

 

MGMT、コールドプレイ、レディオヘッド、イーグルス…。これは20代のある白人のインディ・ロック好きの青年がガールフレンドに送ったミックステープ……ではない。いま最もセンセーショナルに支持を集めるR&Bシンガーであるフランク・オーシャンが、デビュー前のミックステープでサンプリングしたアーティストのリストだ。ずらりと並ぶホワイト・ロック・バンドの数々。しかも彼は例えばイーグルスの「Hotel California」をサンプリングした「American Wedding」では原曲にアンサーするかのように彼なりの方法で西海岸の憂鬱を歌っている。こうしたスタイルは、元々の予定タイトルが『Boys Don’t Cry』であったことが示すように、インディR&Bの寵児から一躍スターとなり当然の如くビルボード1位を獲得した新作『Blonde』でも貫かれており、あからさまにサンプリングをしたりということは無くなったが、例えば「White Ferrari」ではビートルズ「Here, There and Everywhere」へのリファレンスがあり、アルバム制作中のインスピレーション源の一つはビーチ・ボーイズだったとインタビューで答えている。

 

彼のことは、こうしてR&Bの史上誰よりも、白人中心で築かれてきたロック・シーンへと近づこうとしたという点でも語ることは出来るが、何より強調すべきは新作『Blonde』が現行のポップ・ミュージック・シーンのあらゆる力を結集しているという点であろう。アルバム発表時に公開されたコントリビューター・リストには、ケンドリック・ラマーやビヨンセから、ジェイミー・xx、元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタム・ヴァトマングリ、果ては日本のKOHHまでありとあらゆる役者が揃っており、デヴィッド・ボウイやエリオット・スミスのような故人の名前まで並んでいるのだ。彼のこうした手法が示すのは、一見分断されているかのように思えるポップ・ミュージックのあらゆる歴史・場所のリファレンスを繋ぎあわせることで、あらゆる異なる色のもの同士が混ざり合うことでこそ素晴らしいアート作品は生まれるのだ、という気概ではないか。壁を作って別々に生きていくことの方が楽かもしれない。でも、この20代の内省的な青年は諦めていない。分断しようとするいまの世界にアートを通して立ち向かおうとしている。

 

例えばケンドリック・ラマーやビヨンセの新作がアフロ・アメリカンの歴史を時に教科書的に紐解くことで、その背景への理解に時間をかけさせてしまったり、あるいは過剰にコンシャスな質感をもつことで繰り返しのリスニングを好まないリスナーがいた一方で、フランクはほとんどの曲で相も変わらず素直で、正直で、痛みを伴いながら愛を求めている。そういう意味でこれは普遍的な音楽であり、彼は私と同じであり、あなたとも何も変わらない。彼に政治的な意図やいまの社会を見渡しての視座など特にないかもしれないが、それでもラブ・ソングという普遍的なスタイルを通して世界を繋ぎ合わせた。しかもそれが、歴史上ゲイにポジティブだったとは決して言えないヒップホップというシーンに属するオッド・フューチャーから出てきた一人の繊細な青年によって成し遂げられたことこそが讃えられるべきであろう。 (2016.9.5.)

 

 

 

 

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