新たな黄金期にあるR&Bのいま

  • 2017.02.12 Sunday
  • 22:20

「いまR&Bは黄金期にある。2016年はその最も強力な一年だった。」―とは昨年末のガーディアンの記事の見出しです。どうでしょうか。確かに昨今のポップ・ミュージックを牽引しているように見えるジャンルは、ケンドリック・ラマー、チャンス・ザ・ラッパー、ドレイク、ミーゴスらがストリーミングが反映されて以降のチャートやフェス、アワードなど様々な場所で王座に居座り、ここ日本でも空前のブームとなっているとおりラップ・ミュージック/ヒップホップかもしれません。ただ、もちろんヒップホップというジャンルは特に90年代以降あらゆる意味でR&Bというジャンルとも共にあったはず。ともすれば、ヒップホップに連動するかのようにR&Bというジャンルのいまも面白い状況にあるはず、と考えるのも無理はないはずです。いまやヒップホップもR&Bも、例えばマイク・ウィル・メイドDJマスタードメトロ・ブーミンのような同じプロデューサーがトラックを作るのが当たり前になっていることからもわかるように、この二つのジャンルが地続きで繋がっている様は、これまで以上に鮮明になっています。そして何より、2015年のベスト・アルバムの定番がケンドリック・ラマー『To Pmip A Butterfly』だったのに対し、2016年のそれはビヨンセ『Lemonade』、ソランジュ『A Seat at the Table』、フランク・オーシャン『Blonde』でありました。

 

実際、いまのR&Bに目を移してみれば、サウンド、リリックなどその表現の幅広さ、世界各地から新顔が群雄割拠する様からして、一般的に語られるところの黄金期=90年代に匹敵するどころか、それ以上の面白い時代に突入しているように思えます。総じて、ガーディアンの記事タイトルは大袈裟でもなく、2016年のポップ・ミュージックの最も重要なテーマの一つを的確にとらえたものだったのだ、ということです。

 

今回は数回の記事に分けながら、R&Bシーンの現況を確認していきながら、年明けにあったリリース・ラッシュや今年活躍が期待されるブライテスト・ホープをピックアップし、引き続き黄金期といえる状態が続くと思われるR&Bミュージックの2017年について展望していきます。

 

 

 ブラック・ライブス・マターへの共鳴、

表現の壁を取っ払ったトップ・アイコンたち...

 

ディアンジェロ、ケンドリック・ラマー、コモン…。ここ3年ほど、ヒップホップ界からはアメリカでの警察官からアフロ・アメリカンなどマイノリティへの暴力行為への一連の抗議運動=ブラック・ライブス・マター・ムーブメントへのレスポンスが盛んに作品に反映されましたが、2016年はその声が、そうした動きが、ヒップホップだけでなく、R&Bミュージックからもより多く見られた一年でした。

 

ビヨンセ『Lemonade』アリシア・キーズは勿論のこと、嘆き、悲しみに同調するメディテーションとしてビヨンセとは対照的な方法を取ったソランジュ『A Seat at the Table』や、ブルース・スプリングスティーン「Born in the USA」へのアンサー・ソングでありながらも、アメリカ社会が動いた歴史的シーンを切り取ったMV、「Breathe out, breathe in」というリリックの繰り返しによりエリック・ガーナ―の窒息事件にコメントした「American Oxygen」のリアーナ(この曲のリリースは2015年)はその筆頭ともいえます。

 

そして、これらの作品の多くは、ケンドリック・ラマーらがそうであったようにそのサウンド・プロダクションもまた素晴らしかったことで2016年を代表する一枚となりました。特にビヨンセ、リアーナといったこれまでアメリカのメインストリーム・ポップスのセンターにいたクイーンたちの冒険的なサウンド・アプローチは、彼女たちにとってのこれまでの表現の壁を取っ払い、シーンのトップ自らがポップやR&Bの新たなお手本を提示する形となりました。だからこそ、「2016年はインディやアンダーグラウンドよりも、ポップ音楽そのものが一番面白かった」ということが言えます。もちろんビートを極限まで排した挑戦的なプロダクションによってR&Bミュージックの常識を覆してしまったフランク・オーシャン『Blonde』も忘れてはいけない。

 

 

ドレイク、ザ・ウィーケンド以降の新たな表現が花開いた

 

そもそもR&Bミュージックが新たな革新的な動きを見せたのは2000年代の終わりごろから〜2010年代の初めにかけて。そして、中でもこの期間に登場したドレイクザ・ウィーケンドという2人のアーティストの影響力はご存じのとおり。前者は歌とラップの境界を曖昧にし、また独特の女々しくも優しいリリックによって、後者はポーティスヘッドやスージー・アンド・ザ・バンシーズをサンプリングするようなそれまでのR&Bミュージックからは想像もつかない圧倒的なダウナーなムードを駆使しながら、R&Bの新たな表現の時代を宣言しました。私もそれまでR&Bミュージックというと何か、「同一のフォーマットの上で似たような表現が繰り返されている」といった偏見を抱えがちでしたが、この2人の登場によって、その偏見は簡単に崩れ落ちていきました。

 

それ以降、主にドレイクのレーベル=OVO Sound周辺を中心にこの2人の空気感を共有するシンガー・プロデューサーが多数登場しましたが、特にマジッド・ジョーダンdvsn(ディヴィジョン)のデビュー・アルバムの発表を筆頭に彼らのフォロワーの存在感が目立つ昨今の状況からは、ドレイク、ザ・ウィーケンド以降が築いた新たなR&Bフォーマットが完全に実を結んでいるとういことが言えましょう。

 

 

アンダーソン・パック、チャイルディッシュ・ガンビーノ...

シーンにいる無数の才能たち...

 

もちろん、R&Bで活躍するアーティストはここまで挙げてきた名前だけに留まりません。新たな「黄金期」というからには、キリが無い程多数の才能が群雄割拠しているのです。

 

 

北米からは、ファンク、ソウル、ディスコなどをそれぞれの方法でアップデートしたKINGアンダーソン・パックBJ・ザ・シカゴ・キッドチャイルディッシュ・ガンビーノ、更にシーンのライジング・アーティストを多くフィーチャーし、ビートメーカーとして自身の記名性高いバウンシーなビート感を生かしながらそれを行ったケイトラナダ、よりサイケデリックな方向にシフトした大ベテランのマックスウェル、エモーショナルな「Weight in Gold」を携え一気にネクスト・ビッグ・シングとなったガラント、チャンス・ザ・ラッパーのSaveMoneyクルーのすぐ側でその空気感や視点を共有するジャミラ・ウッズ、先鋭的なエレクトロニカのプロダクションの上で歌うドーン・リチャード、インディR&Bの旗手=ブラッド・オレンジなどなど。

 

 

そして、ここ数年は完全にポップ・ミュージックの中心地をアメリカに奪われていたイギリスからも、ビヨンセやカニエ周りの仕事を反映したジェイムス・ブレイク、ボーカル・スタイルは90年代のフィメール・アーティストの系譜でありながらもMura Masa、FKA Twigsらの楽曲のモダンなビート感とも重なるNAOや、ナイル・ロジャースの参加でディスコへも舵を切ったローラ・ムヴーラ、ディアンジェロのバックを務めるピノ・パラディーノや、マーカス・ミラー、エスペランサらを起用したコリーヌ・ベイリー・レイそして先日デビュー・アルバムをリリースしたサンファがいます。

 

もちろん、ジャンル横断的な動きが多い先述のアーティストたちに対し、トラップ・ビートの上で歌うブライソン・ティラーフェティ・ワップトーリー・レーンズ(ブライソン・ティラーのアルバム・タイトルとも紐付けてこれらのアーティストたちの音楽を一部では"トラップ・ソウル"とジャンル化する向きも)、さらにベテラン、アッシャージョン・レジェンドといったより従来からのR&Bのメインストリーム・シーンに位置するシンガーの安定感ある作品のアウトプットもこうしたR&Bの幅広い豊かさを支えているし、ケラーニジェネイ・アイコティナーシェケレラといったこれからこのジャンルのアイコン的地位を目指していこうという女性シンガーたちの動きも見逃せません。

 

 

 

欧米と同時進行するアジア・シーン

 

最後に忘れちゃいけないのはこうした状況に呼応するアジアのシーンです。特に先行していくつかのヒップホップ・アーティストがアメリカでも人気を獲得している韓国では、R&Bも同じように熱を帯びています。ブームバップっぽい90年代のスタンダードなビートから、ブライソン・ティラーのようなトラップとケイトラナダのようなバウンシーなビート感も併せ持ったDEAN(サイケデリックになった様はミゲルとも重なります)やCrushはその筆頭。そんな状況からは、アメリカのポップ・ミュージックとの距離を縮めてきたK-Popが、80年代以降のよりオーセンティックなR&Bミュージックの歴史と完全に交わった瞬間として、益々新しいことが生まれていきそうな息吹を感じずにはいられません。また、アッシャーやジェネイ・アイコをフィーチャーしたアルバム『Chapters』がビルボードやローリング・ストーンのベストR&Bアルバムの一枚に選ばれたマレーシアのシンガー、ユナの名前も挙げておきましょう。

 

ここまで振り返ってみたような、暗澹たる不安を抱えた社会へのレスポンスや、当然のようにジャンルや歴史を横断する冒険的なプロダクション、そして地域性の幅の広さなどあらゆる要素を考慮してみれば、いまの時代のR&B=黄金期という説にはもう疑問が無いでしょう。

 

次回は、年明けにあったリリース・ラッシュからケラーニの『SweetSexySavage』をピックアップし、R&Bアルバムとしてだけでなく、「ポップ・アルバム」として如何に優れているかを紐解いていきます。

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