ケラーニ『SweetSexySavage』が最高のポップ・アルバムである5つの理由

  • 2017.02.18 Saturday
  • 18:25

 

前回の記事でも述べた通り、現在のポップ・ミュージック・シーンにおいてR&Bミュージックはその黄金期真っ只中です。

 

新たな黄金期にあるR&Bのいま

 

そして、年が明けてからの最大のビッグ・リリースはケラーニの全米アルバム・チャート初登場3位を記録したアルバム、『SweetSexySavage』で間違いないでしょう。

 

このアルバムはR&Bアルバムとして優れているだけでなく、シーンの新たなアイコンによる、ウェルメイドなポップ・ソングが並べられた「2017年最も重要なポップ・アルバム」にもなりそうなのです。その重要度で言えば、2014年のテイラー・スイフト『1989』や2015年のカーリー・レイ・ジェプソン『E・MO・TION』とも並べたくなるほど。今回はその、オークランドを拠点とするシンガー、ケラーニこと、ケラーニ・パリッシュの正式なデビュー・アルバムとなる『SweetSexySavage』が最高のポップ・アルバムである5つの理由を語ってみたいと思います。

 

 

1. ケラーニはネクスト・レベルへ達した

    新世代フィメール・アイコンだから

 

本稿で扱うケラーニが先日リリースしたアルバム、『SweetSexySavage』は全米アルバム・チャート初登場3位の好発進を記録し、彼女は一気にR&Bシーンの新たなクイーンへと軽々躍り出ましたが、この成功の裏にはポップ・アーティストとして真っ当な間隔でその歩を進めてきた背景があります。そして、それは周囲の新進R&Bシンガーが簡単に成し得られていないことでもあります。

 

そもそもケラーニは、オーディション番組「America’s Got Talent」に出場したPoplyfeというバンドのシンガーだったという経歴はあるものの、ソロ・シンガーとしてのブレイクのきっかけは、『Could 19』とグラミー賞のアーバン・コンテンポラリー部門へのノミネートも果たした『You Should Be Here』という二つのミックステープです。ここを起点にその後の流れを追いかけてみると、これら二つの作品のリリースが順に2014年と2015年。そして、本格的に彼女が大衆の前で日の目を浴びることとなる、サイケデリックなトラップ・ビートの上でギャングへの愛を歌った「Gangsta」での映画『スーサイド・スクワッド』サントラへの参加が2016年。正式デビュー・アルバム『SweetSexySavage』のリリースが2017年明け。つまり、彼女はシーンに登場して以来一年ごとに着実なステップを踏んできたということがわかります。

 

ミックステープ『You Should Be Here』のタイトル・トラック

 

実はケラーニと同時期にブレイクの鍵を掴みかけたシンガーは他にも何人かいます。しかし、彼女たちはケラーニに比べればその後の決定的な一打が中々掴めていない様子。例えば、DJマスタードのビートの上でScHoolboy Qと共演したスマッシュ・ヒットと「2 On」、それを収録したアルバム『Aquarious』でブレイクしたティナーシェは、来日も果たすはずだった「Joyrideツアー」が制作に専念するため打ち切られ、更にその当の新作『Nightride』は全米89位止まり。また、2013年にミックステープ『Cut 4 Me』でブレイクしたケレラは、引き続きアルカらアンダーグラウンドのプロデューサーとタッグを組むことで自身の神秘的な持ち味をキープしたままだし、ケンドリック・ラマーら所属のTDEで唯一の女性アーティストとして2013年のレーベル契約以来ずっと注目され続けてきたシザー(SZA)はデビュー・アルバムのリリースが2017年まで約4年かかってしまいました。

 

ティナーシェ「2 On feat. ScHoolboy Q」

 

こうしたアーティストたちの現況を見てみれば、ケラーニが一度シーンの注目の目を惹いてからいまのポジションに達するまでのステップの踏み方は百点満点と言いたいほどにお見事と言えますし、この『SweetSexySavage』によって彼女は正真正銘、現在のR&Bシーンの中でネクスト・レベルに達したアーティストになったということがわかっていただけるでしょう。

 

ケラーニ「Gangsta」

 

 

 

2. “SweetSexySavage” こそが

    ケラーニ・パリッシュという人物だから

 

前項でケラーニはいまのR&Bクイーンの地位に「軽々」到達したと書きました。ただ、勿論彼女が苦労していないなんて言うつもりはありません。プライベートでも昨年は自殺未遂なんてこともありましたしね。彼女はいまの名声を得るまでの間、多忙な日々をこなす強いメンタリティがある一方で、勿論プライベートでは繊細さがあったり、恋愛においてのセクシーさあったりと、様々な面を持っている一人の女性であり、一人の人間なのです。そして、それは本作のリリックに現れており、まさしくそれが本作のタイトル、『SweetSexySavage』を体現しています。

 

ケラーニ「Advice」

 

例えば作中には、恋愛における彼女の傷つきやすさを正直に述べた「Keep On」や「Escape」、「Advice」といったスウィートな楽曲があり、一夜限りの関係を匂わせる「Distraction」があり、打たれ強さを見せる「CRZY」や「Do U Dirty」、「Personal」もあります。つまり、このアルバムにおいて彼女は、そのタイトルの通り「私はスウィートにも、セクシーにも、サヴェージにもなれる人間だ」と宣言しているのです。更に、実際に語られているストーリーや感情は普遍的なものが多く、それらは多くの若者が成長過程で経験するようなものとも言えるのではないでしょうか。

 

ケラーニ「Distraction」

 

ケラーニ「Do U Dirty」

 

アーティストとして、女性として、一人の人間として、彼女の持つ「Sweet」、「Sexy」、「Savage」という様々な面を臆面なく正直に述べた本作のリリックは、彼女の魅力をより引き立たせます。

 

 

 

 3. 「Undercover」は

     2017年最高のポップ・ソングだから

ケラーニ「Undercover」

 

まだ2017年も2ヶ月しか経過しておりませんが、これだけは断言したいです。この『SweetSexySavage』に収められた一曲、「Undercover」は2017年最高のポップ・ソングです。BPM145の軽快なビートに乗ったこの曲は、この素晴らしいポップ・アルバムの中でも飛びぬけてキャッチーな一曲。では、何故この曲がポップ・ソングとしても最高なのか。それはこの曲が優れたポップ・ソングの方程式に乗っ取っているからです。私なりの優れたポップ・ソングの方程式の解は、「.轡鵐ロングできるようなキャッチーなフックやメロディ・ラインを持つこと、普遍的なテーマを扱ったリリック、2甬遒里手本からの大胆な引用」の3本です。他にもう一つあるとするなら、「象徴的なリフレインの繰り返し、つまりループ/円環を持った楽曲構造」でしょうか。

 

ではそれが「Undercover」ではどうなのか。まず,亙兇譴發覆メロディ・ラインがキャッチーですし、「One way or another〜」で始まるコーラスではビートが無くなったところに、同じフレーズがスムースに繰り返され強いフックになっていますし、△麓分と恋人との関係を認めようとしない周囲へ “Fuck it!”と宣言するようなテーマからして、十分にユニバーサルなトピックの形を取っていますし、それによって、昨日までケラーニと何の繋がりもなかった他者にさえ語りかける可能性をしっかり持っています。

 

で、ここで肝心なのはです。これについては「Undercover」がどんなパフォーマンスを取っているかに移る前に、この解について2015年と2016年のそれぞれのメガヒットで例えてみましょう。

 

まず2015年のマーク・ロンソン&ブルーノ・マーズによる「Uptown Funk」(リリースは2014年末)が80年代のミネアポリス・サウンドのファンク・グル―ヴをそのまんま持ち込んでいたのはわかりやすいでしょう(ポップ・ミュージック史上最も不名誉な「Blurred Lines」訴訟の影響によってザ・ギャップ・バンドのメンバーが後からクレジットされることになったことは忘れてないけど)。

 

続いて昨年全米12週連続1位を記録したチェインスモーカーズの「Closer」。こちらは00年代に職人芸のようにアダルト・ポップの特大ヒットを生み出したバンド、ザ・フレイの感傷的なメロディをなぞっています(こちらも後からフレイのメンバーの名前が「Closer」のクレジットに載りました)。

 

ここからわかるのは、広く大衆に受け入れられる大文字のポップ・ソングの多くは、その時々のトレンド(ここではEDM的な構造とプロダクション)をベースにしながらも、過去のお手本を研究して何かしら盗んで来ているということ。時代を彩るポップ・ソングほど元ネタのようなものの力に助けられているし、だからこそタイムレスな輝きを放っているのです。そして、そうした大胆な引用の連続によってこそポップ・ミュージックの未来が作られるのでしょう。だからこそ、「ポップ・ソング」というのはダイナミックな表現方法でもあります。勿論、リアーナの「SOS」「Don’t Stop The Music」、ビヨンセとジェイZの「Crazy in Love」、ブリトニー・スピアーズの「Toxic」、M.I.A.の「Paper Planes」といった楽曲も一緒です(こちらでくわしく)。

 

だいぶ脱線してしまいましたが、の解についてケラーニの「Undercover」の場合は、ヴァースからエイコンの2007年のヒット「Don’t Matter」を、メロディは少しばかりトラックに合わせて歌いやすいよう変えているものの、リリックは「Nobody wanna see us together / But it don't matter no / 'Cause I got you babe babe」というラインをそのまま引用しています。この引用が行われたのも両者のリリックのテーマがほとんど同じだからではあるものの、当時ゲイ・アンセムとしてもウケていたレゲエ調のこの曲を持ち込むことで、聴き手の想像力がより拡がるとともに、過去のポップ・クラシックがケラーニを通してアップデートされています。

 

 

こうした引用がなされるのもケラーニの熱心なポップへの探究心があってこそ。2015年のThe Faderのインタビューで彼女の口からこんなことが語られていました。

 

「ソングライターとしてメロディやフック、タイミング、パターン、ワードプレイをブレイクダウンしている。マックス・マーティンで勉強しているの。」―

 

大文字のポップ・ソングの方程式の解き方をなぞった「Undercover」は間違いなく2017年最高のポップ・ソングであります。ただ、特にの「引用」については、この曲はアルバム中のあくまで一つの例に過ぎません。次のパートでより深く語ってみましょう。

 

 

 

4. R&Bの歴史を横断する

    ダイナミックなアルバムだから

 

ケラーニがミックステープで頭角を現した新世代R&Bアイコンであること、例えば2曲目の「Keep On」がイギリスのNAOを思わせるファンク・トラックであること、そして当然のように現行ポップ・ソングのスタンダード=トラップのビートが鳴っていることからして、自然と本作はモダンなプロダクションのR&Bアルバムであると錯覚してしまうかもしれません。ただ、タイトルの『SweetSexySavage』が1994年のTLCのブレイク作『CrazySexySoul』からの引用であるように、本作はあらゆるところにR&Bの歴史の断片が散りばめられている、ダイナミックな作品であることも忘れちゃいけません。

 

まず分かりやすい例を挙げるなら、ボーイ・バンド、ニュー・エディションの1988年「If It Isn’t Love」のコーラスを冒頭に乗っけた「In My Feelings」や90年代後半のR&Bアイコン、アリーヤをサンプリングした「Personal」があります。

 

 

 

他にも「Too Much」のリズム・ワークはティンバランド印の、細かく刻まれながら揺らつくあのドラム・ビートを思い出させますし、「Personal」でラップしながら歌う姿は、そのティンバランドのプロダクションとのタッグでお馴染みミッシー・エリオットの姿を思わせます。

 

 

つまり、本作からは至る所に90年代中ごろから00年代初めにかけての「 "R&B" が "ポップ" の同義語であった時代」のエッセンスが感じられるのです。コンテンポラリーR&Bミュージックの歴史をなぞり、前述のモダンなプロダクションを駆使してアップデートすることによって、このアルバムはタイムレスな輝きを放つとともに、あらゆる世代に引っ掛かり得るようなポテンシャルも持ち得ているといえます。

 

 

 

5. 『1989』、『E・MO・TION』と並ぶ

    最強のポップ・アルバムだから

 

ここまで語ってきたところをまとめると、この『SweetSexySavage』は主にプロダクションの面でのコンテンポラリーR&Bミュージックの歴史のアップデートを、大胆にもポップ・ソングの形式を取りながら成し遂げているということになりそうです。そして、その “ポップ・ソング” は本作の17曲(冒頭はポエトリー・リーディングの形式)全てに対して言えることであり、こうして全編が上質なポップ・ソングで溢れているからこそ、17曲/58分という長さでありながら、リスナーを簡単に疲れさせないのもこの作品の強さです。

 

こうした強度を持ったアルバムを2010年代のポップの歴史で思い出してみれば、テイラー・スイフトの『1989』、カーリー・レイ・ジェプセンの『E・MO・TION』が直ぐに浮かんできます。

 

テイラー・スイフト『1989』収録の「Shake It Off」

 

カーリー・レイ・ジェプセン『E・MO・TION』収録の「Run Away With Me」

 

どちらも主にそれぞれの恋愛体験を独特の語り口で述べながら、それぞれエレポップや80年代のネオンな輝きを持つポップ・ミュージックたちを、最先鋭のライター/プロデューサーたちの力を借りながら最高品質でアップデートしていました。更に付け加えるなら、客演アーティストの力をほとんど借りずに自らを主役に引立てアルバムを完成させたという意味でもこの2枚は、『SweetSexySavage』の横に並べたいアルバムです。

 

2017年に産み落とされたケラーニの『SweetSexySavage』は、こうしたポップのクラシックとも肩を並べることが出来る、最高のポップ・アルバムなのです。是非2017年のあなたのサウンドトラックにしてみては如何でしょうか。

 

アルバムのリード曲ともいえる「CRZY」

  

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