The New Wave of GRIME 〜グライム/UKヒップホップで2015年起きたことと台頭する新世代のMCを知る (2)

  • 2015.12.02 Wednesday
  • 15:43
〜"NEW WAVE"がリアルであることを証明する2015年の10の出来事-ァ



Novelist、Stormzyが『BBC Sound of 2015』にノミネート



「Sound of …」。それは言わずと知れた、英国BBCが発表するその年の活躍が期待される新人のリストであり、その発表は年明けの恒例行事。先日、その2016年版が発表されたこのリストは、前年の12月に15組のロングリストが発表され、その中から選ばれたトップ5が年明け発表されるという方式。これまで、50 Cent、アデル、フローレンス&ザ・マシーン、サム・スミスなど名だたるビッグスターがデビュー前に「1位」として選出されている。



ちなみに左上がNovelist、二段目の左から2人目がStormzy



そんな、業界・音楽ファン大注目のリストに今年2015年は、Novelist、Stormzyという2人のグライムMCの名前が入ったのだ。グライムMCの名前が2組も入ること自体快挙であるが、後者Stormzyはその後見事3位に選出された。批評家や新人情勢に精通した業界人によって確実に「今年はグライムが来る」と予測されていたのである。こんな幕開けをしたからには、今年はグライムの動きに注目しようなんて思っていた人も少なくはないのではないだろうか。





カニエ・ウエストのBrit AwardでのステージにロンドンのグライムMCが集結



英国の音楽シーンにおいて「BBC Sound of …」の発表の次にやってくる大きなイベントといえば毎年2月に開催されるブリット・アワード。そして、グラミー賞と同じく授賞結果以上に注目を浴びるのは豪華アーティストたちによる華々しいパフォーマンスである。中でも今年一番注目が集まったのは来る新作からの新曲を披露することになっていたカニエ・ウエストのステージであろう。





そう、そのカニエのステージに実に25人のロンドンのグライムMCが登場したのである。カニエを囲むようにして現れた全身黒の衣装を身に纏った集団の中には、Skepta、Jammer、Shortyらクルー「Boy Better Know」のメンバーのようなベテランから、Novelist、Krept & Konan、Stormzyなどのニューカマーまで。そもそもこの共演はここで披露されたカニエの新曲「All Day」でも客演しているTheophilus London(セオフィラス・ロンドン)が式のわずか3時間前にSkeptaに「カニエがキミとキミの友人をたくさん連れてきてほしいと言ってるんだ」とメッセージを送ったことで実現したのだという。いきなりの招集命令に対してこれだけのMCを集められるSkeptaの人望もさすがといったところである(Novelistは当時「スケプタの家でチルしてたんだ」らしい)。でも何より、(1)でも少し触れたようにメインストリームな舞台とは無縁といっても過言でなかったグライムを、いまや世界で最も影響力のあるアーティストであり、ヒップホップの最高峰に居るカニエ・ウエストが持ち込んだことはかなりのインパクトであった。





 カニエだけじゃない!ドレイク、A$AP Mob…。グライム、遂にアメリカ進出か!?



そう、いまグライムに夢中になっているアメリカのラッパーはカニエだけじゃないのだ。



まずはドレイク。今年初頭に発表したアルバム『If You’re Reading This, It’s Too Late』収録の「Used To」(リル・ウェインのミクステ『Sorry 4 The Wait 2』収録の原曲にヴァースを付け足したヴァージョンである)では、スケプタの昨年のヒット・シングル「That’s Not Me ft. JME」のラインを引用しており、彼の名前をしっかりとクレジットに書き込んでいる。スケプタのことは相当気に入っているようで今年のOVO FestWireless Festivalでも共演している。ちなみにこの後スケプタは今年のMOBO Awardでのベストトラック受賞曲でもある「Shutdown」の冒頭でドレイクのVineのオーディオをサンプリングした。実は、ドレイクがUKのMCに興味を示すのはこれが初めてではない。遡れば2011年の傑作『Take Care』収録の「Cameras」の中でロンドンのラッパー、Sneakboのトラック「How You Mean」について言及したのを機に、彼をUKツアーの前座にもフックアップしているほか、2012年にはWileyと交流したことも。





そして、A$AP Rockyを中心にクルー、A$AP Mobの面々のグライム・シーンへのアプローチも特筆に値する。A$AP Mobは昨年のRed Bull Culture Clashでスケプタらを擁する人気グライム・クルー「Boy Better Know(略称:BBK)」らと共演特にA$AP Rockyは今春、ロンドンのグライム・シーンについて熱く語り、更に新作『At.Long.Last.A$AP』にはグライムの影響もある。こと、「A$AP Mobはグライムの重要性を認識した最初のUSのクルーだ」とも熱弁を奮っていた。その後7月には、スケプタ、ノヴェリスト、Piff Gangらをフィーチャーしたショート・フィルムを制作していたという報まであったほど。



現在USヒップホップ・シーンでトレンドの一つとなっている低音の効いたトラップ系のビートはBPMも近く、グライムで使われるビートと類似していることを指摘する声もあるし、いまはまさにグライムがUSヒップホップシーンとも親和性を獲得しているのかもしれない。そして例えばハドソン・モホークやラスティ、エヴィアン・クライストなど、最近のインストゥルメンタル・グライム・シーンとも近い場所にいる英国のDJとタッグを組んだカニエ・ウエストやダニー・ブラウンらの近作によって知らず知らずにグライム系のビートを聴きなれているリスナーもアメリカに多いであろう。グライムはその創世記において、カルチャーとして英国を超えてグローバルな成功を果たせずUSヒップホップ・シーンからもアテンションを惹けずにいた歴史がある。しかしこれらカニエ、ドレイク、そしてA$AP Mobらの動きを筆頭に、アメリカはやっとグライムを受け入れる準備が出来たのである。そしてそれは=「グライムはアメリカに進出する準備が出来た」ということでもある。そして、さきほどのカニエの件でもそうだったが、ここでもスケプタが大きな役割を果たしていることも加えて強調しておこう。





日本からも衝撃的(!?)なグライム・カバーが!



音楽や映画などエンタメ界においては何かと「ガラパゴス」といわれてしまいがちないまの日本。でも、グライムは例外!?なんて大袈裟なこともいえるかもしれない。日本にも実力のあるグライムMCはたくさんいるし、サウンド・クラッシュ(War Dub Japan Cupのサンクラリンクを)に似たイベントも行われたほど。そして、SlackkVisionistMurlo(マーロ)ら注目DJも今年来日しており、水面下ではリアルタイムな現地の動きと繋がってもいた。



しかし、今年の夏の終わりに投下された女性3人組ラップグループ、嫁入りランドによるMumdance(マムダンス)ft. Novelistの「Take Timeをカバーしたトラック「Now Loading」は、男性MCのトラックに聴きなれていたこともあり、その歌詞の世界観も含め原曲と全く違った味を感じさせた点でも衝撃的だった。アップされるやいなやベテランDJ、PlasticianRinse FMでかけたことでComplexのUK版Fact Magazineなどで紹介され、Noiseyではインタビューまで掲載された







他ジャンルとのクロスオーバーで更に発展するニューウェーブ・グライム



さて、(1) でグライムが「EDMとの結びつきでルーツを失いかけていた」と記したが、シーンはそのルーツを取り戻しただけでは「発展」しない。ここ7、8年のヒップホップがそうであったようにグライムも他のジャンルとのクロスオーバーを通して発展しているのだ。今年、その傾向がはっきりと映った動きがいくつか見られた。



例えばファティマ・アル・カディリ、イングズングズのアスマとダニエル、Jクッシュという4人の世界各地の気鋭のDJとMCが集ったFuture Brownが年始に発表したアルバムでは、グライム、あるいはガラージも一つの影響源として持つDJが集まったことでグライム・オリエンテッドなビートが聴けるだけでなく、ベテランMCのラフ・スクワッドのプリンス・ラピッドとダーティ・デンジャー、ロール・ディープからリコ・ダンらが参加している点にも注目出来る。





そして、ビートといえばここ2〜3年ほどはMCなしの「インストグライム」というスタイルも一つのトレンドとなっており、?でも触れたMumdance、Slackk、MurloそしてVisionistら新鋭プロデューサ―はFuture BrownだけでなくOPNことOneohtrix Point NeverやArca周辺とも関連付けられている。こうしたDJたちの進化に返答するかのように、彼らの奇抜なビートにNovelistなど若手MCがライムを乗せていくことでMCたちもスキルを伸ばし、DJ、MCが互いに刺激し合いながらグライムという一つのジャンルを発展させているとみることも出来るのではないだろうか。そんなところにも新たなグライムの発展具合が伺えるだろう。



そして、(1) でも紹介したがUKロック・シーンからもデビュー作がトップ10入り、マーキュリー・プライズのリスト入りも果たしてたパンクバンド、スレイブスは、スケプタの「Shutdown」をカバー、その後ライブでも共演を果たした(ここでもスケプタがジャンルの発展に一役買っている!)。更に彼らは既に取り掛かっているという次作について「グライムからの影響の強い曲が何曲かある」とはっきりと述べているのだ。グライム、次はロックとのクロスオーバーで新しい可能性を探るなんてことも?





⇒(3)~"NEW WAVE"がリアルであることを証明する2015年、10の出来事Α銑はこちら
 
⇒(1) はこちら






 
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