51. 88 "Twilight Zone"
釜山を拠点としている(と思われる:公式な情報が無いが、Facebookには釜山を位置情報にしている投稿が多数あった)バンド、88。ベースライン、シンセのメロディともレトロで80年代的な懐かしさが光る。
50. SHAUN "Way Back Home"
今年世界的に流行ったモードに「チルEDM」というものがあって、ChainsmokersやMarshmelloなんかがヒット曲を飛ばしたり、この夏にはJonas Brue「Rise」が全英3位など世界的な大ヒットを記録したが、バンド、The KOXXでDJ/プロデューサー&キーボードを担当していたSHAUNがリリースしたこの曲も同じモードの曲だ。心地良いメランコリーなメロディ・ラインは普通にフォーク・ソングとしてさえも成り立ちそう。計3週1位を含む、11週連続でトップ5圏内に留まるなど、如何にこの国がグローバルな流行と連動しているかを思い知らされた。
49. KWAK JIN EON "Freely"
オーディション番組Superstar Kのシーズン6(2014年)のウィナーとしてデビュー。アコースティック・ギターやピアノをバックにした静かなバラードを得意とする、それこそ普通の「バラード・シンガー」に思えたが、この「Freely」の美しさには思わず心を奪われた。ペダルを踏み続けリヴァーヴのかかったピアノ、エフェクトのかかったボーカルはサイケデリックにさえ聴こえてくる。
48. Giha and the faces "Cho Sim"
日本語名、チャン・ギハと顔たち。2012年にはKorean Music AwardでAlbum of The YearやMusician of The Yearなど4部門を受賞するなど10年代の韓国を代表するインディ・ロックバンドの一組であった6人組。惜しくも今年いっぱいで解散を発表しておりこれはラスト・アルバムからの一曲だ。
ビートルズやドアーズのような60年代のロック、グラム・ロックなどをモダンに聴かせる個性的なバンドだった。エコーをかけるようなコーラス、ラストのベースライン…。最後まで異物感いっぱいだけどクセになる一曲だ。
47. OuiOui "Thinking About You (Feat. Wilcox)"
Inplanet Musicから今年デビューした2人組OuiOui。優しいボーカルとチルR&Bなトラックが魅力の彼女たちのデビュー・シングル「하나(HANA)」からレーベル・メートのR&Bシンガー、Wilcoxをフィーチャーした曲。スロウなムードの他のシングル、「Moonlight」や「Ocean」よりもリズミカルで、90s的なオーセンティックなR&Bのテイストを聴かせている。
46. WINNER "EVERYDAY"
いくらトラップが普通にK-Popでも流行ってるとは言え、これには驚いた。YG所属の4人組アイドル・グループ、WINNERのこの曲は、オートチューンの使いこなしから、アドリブのハマり具合までまるでTravis Scottの楽曲である。
45. Woodie Gochild, HAON, Sik-K "KITKAT (Prod. WOOGIE)"
「キットカットを割るようにルールを破ろう」というポップなコンセプトの一曲。一度聴いたら耳から離れなくなるシンセ・メロを用いたWOOGIEのトラックが良い。GroovyRoomにしても、こういうトラックって韓国っぽい気がする。
44. SIk-K "FIRE (Prod. GroovyRoom)
人気ラッパーのSik-Kが、デビュー時からのパートナーともいえようプロデューサー・デュオ、GroovyRoomと共にロック・サウンドに挑んだ一曲。元々トラップxフューチャーベース的な軽やかなビートと彼のラップのマッチングが好きだったけど、Post Maloneなんかと共振するこの曲もチャレンジングで野心を感じたし、単純に良いメロディだった。
43. YURI "Always Find You (Feat. Raiden)"
GIRLS GENERATION(少女時代)のメンバー、YURIが、Ultra Miamiにも3年連続で出演するなど世界的に活躍する韓国人、DJ/プロデューサー、Raidenとコラボ。SMエンターテインメントの毎週金曜日に企画モノ曲をリリースする「STATION」の第42弾としてリリースされた。FlumeやChainsmokers的なフューチャー・ベースのトラックにYURIの優しげなボーカルが乗っかり、ドラマティックなメッセージ・ソングに。
42. iKON "KILLING ME"
YG Entertainment所属の7人組。8月に出したミニ・アルバム『New Kids: Continue』から。(2017年に出た『Begin』、今年その後出た『Final』と3作合わせて「New Kids」シリーズ。)実は自分は韓国語を勉強していて「ちゅけた」というフレーズは「死にそう」という意味なのでそういう意味でも頭から離れない(「暑くて死にそう」って使い方とかで日常的に使うそう)。
恋人との別れの重さが自分を締め付ける、襲ってくる、という歌。軽やかなハウス・ビート、ブレイク時のメロディ(その間のハードなダンスもとてもかっこいい)などトラックも聴きどころが多く、年初に出て大ヒットした「Love Scenraio」よりもずっといい曲と思う。
41. CIFIKA "Prosper"
Billboard、i-D、VICE、DAZEDなど多数のメディアで紹介される注目の新鋭エレクトロ・ミュージック・プロデューサー。クルー、Third Culture Kidsにも所属。Washed Outの『Within and Without』との出会いをきっかけにアーティスト活動を始め、元々LAやロンドンに住んでいた時期もあったが、自分のファンが想像以上に韓国国内にいることがわかり、今はソウルに活動拠点に置いている。FNMNLに掲載されていた特集記事も是非チェックを。
「ポスト・ダブステップを纏ったBjork」と言いたくなる、サウンドだけでなく歌も魅力のプロデューサーだ。Yaeji、Peggy Gou、Aseulなんかが好きな人におすすめと言いたくなるが、韓国のロック・バンド、Sanulrimの1981年の曲「Youth」のリメイクも興味深かった。 (ドラマ「応答せよ」のOSTでもKim Feelというシンガーがカヴァーしていた)
40. EXO "Tempo"
SM Entertainment所属の9人組。全米23位を記録したアルバム『Don't Mess Up My Tempo』から。
ドラマ「glee」で見たものを思いださせるアカペラのメロディ(この綺麗なアカペラが出来ちゃうのもEXOの強みだ)、最近で言うなら「Treasure」〜『24K Magic』期のBruno Mars的なファンク、ヒップホップの取り入れ方、そして多用されているベットが軋むような音もとても耳に残る。もちろん途中にはトラップのビートが入ってきたりして「いまっぽい」のだが、とにかくタイムレスな魅力も持ったポップ・ソングして最高の出来だ。
39. BTS "Airplane Pt.2"
BTSのLove Yourselfシリーズでは、チルなR&B、トラップ、エモ・ラップ、ロック、とにかく今のポップ・ミュージックの流行りをどれも逃さないようにとばかりに多様なジャンルが取り入れられていたが、ラテン・トラップもその一つ。曲名の通り、グローバルな活躍を謳う彼らのアンセムだ。DJではCardi B「I Like It」と繋げて使った。
38. SEUNGRI "1,2,3!"
BIG BANGのスンリによるチャート1位を記録した初ソロ・アルバムから。元気のいいハンドクラップのビート、リズミカルなギターリフ、壮大なストリングスのメロディ、1,2,3!という掛け声。「3まで数えるから俺に夢中になって」。聴く人を必ず明るい気分にさせてくれる、ちょっとミュージカル的な曲。
37. HYOLYN "Dally (Feat. GRAY)"
元SISTARのメンバーとしても知られるヒョリンはソロでも多数ヒット曲を持っている。個人的には昨年のGroovyRoomプロデュースの爽快なサマー・チューン、「Blue Moon」がすごく印象に残っているが、今年も夏前にクールな一曲を残してくれた。あまりにもトラックがかっこよくて、最初はTinasheなんかの新曲じゃないの!?と思った(GRAYとHyolynの共作曲とのこと)。「Dally」は「別に」の意味。ヨリを戻す方法なんて、理由なんて、別にないわ、と軽く(GRAYが演じる男を)遇らう一曲。MVからもわかるように、トラック、歌だけでなく、パフォーマンス全体で確実にアメリカに訴えかけれるシンガーだ。自主レーベル「bride」での活動など野心的なだけにより注目。
36. KATIE "Remember"
「K-Popスター4」というオーディション番組の3年ほど前の優勝者。フューチャーR&Bトラックも彼女の声に合っているし、出で立ちも既に完成しきっている感じが。声というか歌い方はAlessia KaraやTove Loなんかと近いと思う。MVにはCJammやSik-Kも映っている。
35. NCT Dream "We Go Up"
NCTはSMエンターテインメント所属の18人組。18人がNCT U, NCT 127, NCT Dream, NCT2018という派生グループそれぞれでも活動している。中国、日本、カナダ、アメリカ、タイという国籍の広さも特徴的。NCT Dreamはそのうち当初「NCTグループのうちの未成年メンバー」によって構成されたグループ。
この曲は近作のファレル(特にN.E.R.D「No One Ever Really Dies」みたい)っぽい軽やかなビートがとてもいい。7人のアンセミックなコーラスも若々しくカラフルで魅力的。
34. LOONA "Favorite"
BlockBerry Creative所属、2016年10月にデビューした12人グループ。別名、「今月の少女」。デビューから毎月一人ずつメンバーを公開していく、という任務を遂行し、今年春ようやく全メンバーでの楽曲を披露した。その最初のシングル。イントロから強烈なシンセメロが聴こえてくるが、ブリッジをのぞいて兎に角、「今のポップの正解」からは逸脱したような忙しなさ、音数の多さではないだろうか。故にミステリアスな魅力を放った。
33. pH-1, Kid Mill, Loopy, Paloalto "Good Day"
人気ラップ・サバイバル番組「SHOW ME THE MONEY」の新シーズンから生まれたコラボ曲。4人それぞれがスキルフルな部分、メロウな部分、リズミカルに攻める部分を使い分ける。CodeKunstのトラックもノリやすいテンポ感(BPMは155だ)、キーボードの伴奏が心地良く良い。それにしても11月にソウルに行ったのだけど街中のいろんな飲食店でこの番組が放映されていたり、この曲がかかっていたりして(そりゃ曲自体はヒットしているからね)びっくりだった。
32. GOT7 "Sunrise"
GOT7の3枚目となるフル・アルバム『Present: You』からJBのソロ曲(このアルバムにはメンバー全7人のソロ曲が収録されている)。Tory Lanezや、 Bryson Tiller、GallantといったアメリカのR&Bシンガーを思い出させるような上品かつチルなオルタナティブR&B。
31. Hyukoh "Graduation"
リリックは不安を抱えながらも勢い任せに行動してしまう青春時代を思い出させる。Televisionのようなギターリフに始まったかと思えば、途中からサーフロックに変わるところが面白い。Hyukohのロック・バンドとしてのポテンシャル=ルーツの幅広さだと思い知らせる一曲。
30. Ele "Out of My Side"
一聴して「これは!」となったエレクトロ曲。インターネットでも全然情報を見つけられない。Apple Musicでは5枚のシングルと1枚のアルバムを試聴でき、どれもエッジーな感性を覗かせていて今後も気になるアーティスト。Yaeji、Peggy Gou辺りと共振するところもあるのかな。
29. ZICO "SoulMate (Feat. IU)"
アイドル・グループ、Block Bを今年脱退、以前よりソロでヒットを多数持つラッパー、ZICOがIUとデュエットした、スウィートなラブ・ソング。
スムースでジャジーなトラックは、特にバックのギターが幸せのカップルの「心地よさ」を演出し、後半で登場するトランペットはそれに華を添える。「大きなソファにくつろぎ スプーン一つで/戯れながら食べるアイスクリーム」「起こってもないことで ヤキモチをやくかもしれない」切り取られた言葉たちはどれも何気ないかもしれないが、若く、でも「離れない何か」を感じ合うカップルのテーマソングだ。
28. HwaSa, Loco "Don't"
MAMAMOOのメンバーであるファサ、人気ラッパーLocoのコラボ曲。Locoの方が以前から「一緒に仕事してみたい」、更に「理想のタイプ」とまで公言していたところ、KBSの番組「鍵盤上のハイエナ」の企画として実現したそう。(この今年3月に始まった番組はプロデューサー/ソングライターが一つの曲を完成させるまでのプロセスを映すリアリティ・ショーで、番組中で作られた楽曲はデジタル配信もされている。)ブルース・ギターとキーボードの甘いメロディに先導され、「これ以上お酒を注がないで/理性の紐を切ろうとしないで」と大人の愛を歌う。セクシーかつソウルフルなファサに合ったテーマ、トラックだ
27. Bolbbalgan4 "Travel"
Bolbbalgan4 (通称=BOL4、韓国名: 볼빨간사춘기/ポルパルガンサチュンギ=赤い頬の思春期)は韓国東南部ヨンジュ市出身の高校のクラスメート、ジヨンとジユンの2人組から成るバンド。2014年にオーディション番組Superstar Kに出演(この時は他にあと2人メンバーがいたそう)、ファイナリストに残ったことをきっかけにデビューを果たした(Hyukohもそうだけど、少し前までは韓国で人気バンドになるにはオーディション番組への挑戦が大事なんですね。)。2016年の「Galaxy」がインディ・バンドとして異例のチャート1位を記録して以来、大衆的な人気を持つバンドに。
何よりの魅力は彼女たちが書く「若さ」を感じさせるはつらつとしたメロディ、ジヨンの透明感ある綺麗で爽やかな歌声だ。「休むことなく輝いた夢のような my youth /世渡りに疲れ 壊れかける頃」からの旅たちを爽やかに歌うこの曲は、2人の次章をより楽しみにさせてくれる。
26. Land of Peace "Armando's Pizza"
ソウルを拠点とするインディ・ロック・バンドのEP『Life in Timog』から。憂いを帯びた歌い方、その歌を生かすコード弾き中心の演奏は、OasisやThe Verveのような90年代のイギリスのロックからの影響を強く感じさせる。新しさは無いものの、そのソングライティングの完成度は素晴らしい。
25. PENTAGON "SHINE"
残念ながらメンバーのイドンのヒョナ(元 Wonder Girls、4Minuteのメンバー。ソロでも活躍中)との交際問題での事務所脱退(もちろんグループからも離れた)というゴシップ面での話題が目立ったペンタゴンだが、はつらつとした若さとキュートさを聴かせたこの曲が、この春に爽やかな風を吹かせたたことを忘れてはならない。
iKONの「Love Scenario」よろしくキャッチーなピアノリフが印象的だが、ダンサブルでヒップホップ的な柔らかさ、軽やかさを持ったこのサウンドこそが彼らの少年らしさにうまくマッチしている。「前から君のことが、す、す、好きだった」で始まるこの曲は「君のことが大好きで執着してしまう、弱虫な僕」という歌のテーマが兎に角フレッシュだった。この曲で嬉しい初めてのシングルでのチャート・トップ100入りを記録していた。
24. fromis_9 "Love Bomb"
入りの「ドッドドドド...」というサンプルからインパクト大。クレジットを見て「Mayu Wakisaka」という日本人ソングライターの名前があることに気付いて、なるほどと思ったのだ。彼女は最近だとTwice「Knock Knock」、LOONA「Hi High」なども手がけていた。エレクトロ・サウンドに忙しないくらいの音色を足して行く。一風変わっているけど中毒性がすごい。
23. Punch "Good Bye"
多数のOSTへの楽曲提供で人気を持つ、シンガーソングライターのPunchの「Goodbye」は「二度と誰も愛さないで/結局私のように苦しむから」というコーラスの通り、急な失恋の後の悲しい感情を抑えることなく歌った、聴けば聴くほど切なくなる一曲。「寒い冬」の早朝を思わせる一聴して歌詞の世界観に引き寄せるセンチメンタルなメロディが、「これぞバラードの醍醐味」と思わせる。
22. (G)I-DLE "$$$"
CUBEエンターテインメント所属。MOMOLANDと共に今年の新人グループで最もブレイクした。デビューEP『I AM』収録。
まずインダストリアルなトラックに驚かされる。そしてヴァースの の激しいラップ、ブリッジの によるボーカルの美しさ。 4人が揃ったコーラスの力強さ。エッジーであることを厭わない、4人組のポテンシャルが結実した一曲。
21. Loco, Colde "It Takes Time"
今年シーズン7が放送され現在も大人気のラップ・サバイバル番組「Show Me The Money」のシーズン1ウィナーだったLoco。ということでラップのスキルも十分あるのだが、それ以上にその魅力はラップと歌の境界を無くしたようなシンギング・ラップのスタイルだと思う。憂いを纏って歌うその様はまさに韓国版Drakeといっても言い過ぎではない。恋人との別れを受け入れるのに「時間がかかるんだなあ」と自分に言いかけるようなこの曲も楽曲のピークとなるようなフック、コーラスがあるわけではないのに、ラップ〜歌メロの流れがスムーズでとても癖になる。
「ストリート」や「自らの置かれた状況」を歌ったりレペゼンしたりするのではなく、ただ洗練されたかっこいい、新しいスタイルとして90年代当初からアイドルが取り入れ一般化した韓国のラップ文化。Locoはその象徴に思えるのだ。
20位から1位はこちら。
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20. "Whee In - Easy (Feat. Sik-K)"
Gaon Digital Chart最高位: 36位
CJ E&M所属の人気グループ、MAMAMOOのリード・ボーカリストのソロ・シングル。「私はそんな簡単な女じゃないの/もう遅いわ」「僕の愛は本気だよ。だからごめん。もう一度チャンスを」と男女の関係を、男役にSik-Kを客演させて演じる。「Too Late / You’re so Stupid / Easy 」などキメのフレーズは英語が使われているけど、韓国語部分との混ざり方があまりにも自然で、上手いなあと思う。それにしてもSik-Kは客演のオファーが絶えないようだ。
19. YESEO "Honey, Don't Kill My Vibe"
このリストにも出てくるCIFIKAとも並んで韓国のエレクトロ・ミュージック・シーン注目の新鋭の一人。昨年リリースしたミニアルバム「Million Things」で、「第15回韓国大衆音楽賞」最優秀ダンス&エレクトロニックアルバム・ソング、今年の新人部門候補にノミネート。今年、SM Entertainmentの毎週金曜日に楽曲をリリースする企画「STATION」からも「Privacy」を発表するなどメインストリーム方向への野心も強そうだ。
エアリー(airy)と言ったらいいのか、ハスキーと言ったらいいのか、独特の歌声はデジタルというか機械的な感じがありロンドンのシンガー、FKA Twigsも彷彿とさせる。それだけに彼女のスタイルは、チルウェイブ、ディープハウスというビート、ダンス系の音楽だけでなく、R&Bの要素も強く、同じ韓国人エレクトロ・プロデューサーのYeajiとのシンクロも感じさせる(高校生時代にR&Bの歌のトレーニングをしていたそう)。今年リリースしたアルバム『Damn Rules』も必聴だ。それにしても韓国のエレクトロ・ミュージックには面白い女性プロデューサーが多い。
18. (G)I-DLE "LATATA"
Gaon Digital Chart最高位:12位
22位にも登場した4人組のデビュー・シングルはMajor Lazer「Lean On」を直ぐに思わせるムーンバートンのダンス曲だった。驚きはソングライターのクレジットがメンバーのソヨンの名前のみであること。女性アイドルではまだ「自分で曲を書くメンバー」は貴重な存在とされると思うが、それも共作ではなく単独クレジットとなっている。トラック自体の完成度もさることながら、タイ人メンバーのミニーが歌うブリッジは、優しい声で滑らかに囁かれるのが癖になったり、私たちの頭に叩き込むように繰り返される「ラタタ…」というフレーズが耳にこびり付いたりと、毎日何十もの楽曲が量産されるK-Popファクトリーの目玉曲となるための要素で溢れている。 1:10〜の間奏部分の振り付けも印象的。
17. HAON "붕붕 (Feat. Sik-K) (Prod. GroovyRoom)"
Gaon Digital Chart最高位:3位
オーディション番組大国韓国では、ラップを題材にした番組もいくつも作られている。17位で紹介したLocoがシーズン1を制したSHOW ME THE MONEYは9月〜放送されているが、それと代わるように年の前半放送されていたのは今年シーズン2を迎えた「高等ラッパー(School Rapper」だ。その名の通り出演するのは高校生たち。そのシーズン2の優勝者が番組中で披露しシングルとしてもリリースされたのがこのSik-Kとのコラボ曲だ。是非この番組中のパフォーマンスを見て欲しい。
HAONの才能は目を見張るものがあり、息継ぎの少ないスキルフルさ、メロウな曲にも対応できる内省的なムードが魅力的。ソロ・デビュー・シングル「NOAH」もよかった。だが、何より素晴らしいのは彼のリリックでの表現力だろう。普通の学生からテレビ出演を経てスターになっていく。その過程の自分を「空が青くてよかった/君の目には俺がイルカみたいに見えているだろうか」と歌ながら「空を飛び回るもの」に喩え、その直後には「商品になってしまった俺の感情」「Finally famous / でもこれって何の意味があるんだろう」と「有名人になり消費される自分」について吐露する(こんな感情まで見据えたラップはきっと他の学生にはできなかったことだろう)。イントロのギター・リフ、終盤のフルートのメロディ。番組中でHAONのメンターとなったGroovyRoomのトラックはいつも通りキャッチー。「俺はまだまだ空高く飛んでいく」ー 一人の少年の成長の物語が巧みに表現された。
16. Twice "Dance The Night Away"
Gaon Digital Chart最高位:1位
陽気なホーンのメロディ、軽やかな(ディープ・)ハウス・ビート。この夏のK-Popを象徴する一曲であるこの曲は、キュートな音色が施されたTWICEらしいバブルガム・ポップ。しかしながら、コーラス(歌メロのサビ)ではなくその直後のホーンのメロディに曲のピークがあるというEDM的な曲構成もあって、普段の「愛って何か知りたい」(「What is Love?」)など少女性のようなテーマが目立ってしまうとき以上にグローバル・マーケットへのインパクトを感じる。
15. NCT 127 "Regular"
NCTこそが最もドープでエッジーな男性K-Popグループで間違いない。2018年もNCT U「Baby Don't Stop」、NCT 127の「Chain」、NCT Dreamの「We Go Up」など、どの派生グループになってもそれは変わらなかった。中でもラテン・ポップ、トラップ、フューチャー・ベースがミックスされたこの「Regular」はその究極の完成形だ。
NCTグループは韓国国内ではトップ10シングルを持たない(アルバムは1位を取っているが)にも関わらず、この曲を収録したアルバムが全米86位、Jimmy Kimmel Live!への出演も果たしている(そもそもこの曲が初公開されたのはBeats1のZane Loweの番組だ)。歌詞にさえリアリティや表現の一捻りが加えられれば、訴求力が出てくれば、BTS同様の快挙も(BTSの曲のところで後述するが、彼らはリスナー個人に訴えかけてくる、共感させてくれるという意味で歌詞が何より強みだった)そう遠くはない。
14. MOMOLAND "BBoom BBoom"
Gaon Digital Chart最高位:2位
ラテン・ホップなのか?ディスコなのか?ヒップホップなのか?いやこれはK- popでしかない。MOMOLANDのデビュー曲は、欧米のポップスではあり得ないようなジャンルの組合せ、一度耳にしたら離れない中毒性の強いメロディによって、これぞK-Popの面白さだと体現している。セカンド・シングル「BAAM」ではラテンの代わりに中東音楽のエッセンスを注入(しかもMVは韓服を着ながらインド映画のようなダンスだ..)。それ以外はほとんど同じ作風なのに聴き飽きさせないのがすごかった。間も無く3億回を通過しそうなYouTubeの再生回数、紛れもなく今年一番ヒットしたK-Popシングルの一つだ。
13. SUNMI - Siren
Gaon Digital Chart最高位:1位
元Wonder Girlsのメンバー。昨年の「Gashina」に続きこの曲がソロ2曲めのチャート1位獲得。
K-Pop界で一番”Madonna”が近いのはSunmi(ソンミ)で間違いない。今年前半のヒット「Heroine」以降の彼女は益々そんなモードを高めているように思えた。この「Siren」もトラップ・ビートを時折混ぜながらも、全体的にはそのMadonnaのディスコグラフィにもフィットしそうな80s的なダンス・ポップ(RobynやCarly Rae Jepsenの近作にも並べられる)。「これ以上私に近づかないで/あなたの幻想に 美しい私はいない」昨年の「Gashina」、先述の「Heroine」と共にアルバム『Warning』のテーマにもなったこの曲で、彼女は恋人だけでなく私たちにも「(私は)大衆のイメージ通りには染まらない」と宣言するかのよう。ここにはパワフルで、独立したアイドル像もある。しなやかでセクシーな体の動きを見せてくれる振り付け、椅子を使ったパフォーマンスなどを見てるとますます彼女のシルエットがMadonnaのように見えてくる。
12. BLACKPINK - "DDU-DU DDU-DU"
Gaon Digital Chart最高位:1位
YG Entertainment所属の4人組。この曲を収録したEP『Square Up』は 全米40位、更にこの曲自身も全英78位、全英55位のヒットを記録した。
最強のフィメール・グループを宣言した一曲だ。ボムが投下されるように鼓膜に、心臓に響いてくるベース音、中毒性あるシンセ・メロ(リフ)、連射するように強打されるスネアとハット。YGのTeddyが手掛けたトラックはこれまで以上にハードだ。そしてBPM140を超えるそれを難無くこなす4人の世界のポップ音楽の王座のチャレンジャーたち。デビュー曲の「BOOMBAYAH」同様に韓国語でも英語でも無い新たな言語で、その鍛えられた柔軟でタフな身体で、全ての壁を飛び超えるように、ボースティングをキメていく。一度パフォーマンス映像を見て欲しい。彼女たちの強い目つきにノックアウトされるはずだ。ダンス、ラップ、ハーモニー、全てに隙がない。ここでも書いたが、欧米のポップ音楽界に挑むどころか、もはやBLACKPINKこそが世界中のお手本になっていく。ガール・グループの歴史を変えるのは時間の問題だ。
11. BTS - "Fake Love"
Gaon Digital Chart最高位:1位
Big Hit Entertainment所属、Billboard Music AwardやAmerica Music Awardなどアメリカの主要音楽賞での受賞やパフォーマンス、更にはこの曲を収録したアルバム『Love Yourself』の全米1位を獲得など、言うまでもなく今年世界の音楽シーンの主役の一組だった。
魅力は、「Airplane Pt.2」のところでも書いたようにエモ・ラップ、チルなR&B(orオルタナR&B)、トラップ、ラテン・ポップなど世界的なトレンドを如何にすべて取り入れつつ、マキシマリズムとも言えようスタジアム・ロックのような壮大で、ドラマティックなムードで統一してしまうそのサウンドにもあるが、それ以上に私たちを惹きつけたのは「自分を愛すること」を歌ったその歌詞だった。「僕も僕が誰だったかよく分からなくなってしまった」ー メンバー個人の孤独や憂鬱を素直に曝け出す姿は、他のアイドル以上に私たちに近い存在で、私たちを勇気付ける力を持っていた。そして彼らはSNS等も駆使しながら私たちに対して「あなたも私と同じように自分のストーリーを語っていい」と話しかける。そしてもちろん、彼らの一級品のパフォーマンスが何よりの説得力だ。
10. Hyukoh "Love Ya!"
Gaon Digital Chart最高位:46位
ソウル・ホンデをベースにシングル・チャート1位を獲得した曲を2曲持つなど、韓国のインディ・ロック・バンドとしては異例の人気を持つバンドの今年リリースしたミニ・アルバム『How to find true love and happiness』。
近作ではどっしりとしたバンド・サウンド、その演奏力の成長が顕著だが、やはりフロントマンのオ・ヒョク書くメロディの豊かさこそがこのバンドの最大の魅力だと思う。それはもう青春映画のエンドロールのようであり、マイ・ケミカル・ロマンスのようなエモ・バンドを聴いているようでもある。この曲も「Wi Ing Wi Ing」、「Gondry」、「Tomboy」(先述の音楽賞で「Song of The Year」を受賞している)といったこれまでの彼らのディスコグラフィに並べられる美しい旋律だ。シンプル過ぎて、安っぽくも感じられて、ついつい使うのを避けがちな3つの単語—「I Love You」も、ここではあなたの前の意中の人が誰で、どんな距離感であっても必ず届いてくれる。
9. MINO "FIANCE"
Gaon Digital Chart最高位:1位
YG Entertainment所属のグループ、WINNERのメンバー、ミノのソロ・シングル。
ありそうでなかった韓国歌謡とヒップホップのコラボレーションだ(←他にもこういうサンプリングがあったら教えてほしい!)。キム・テヒの「昭陽江の乙女」(1969年)というトロット(簡単に言えば韓国版演歌のようなものだ)のクラシックをサンプリングし、モダンなヒップホップxEDMサウンドにオリエンタルなテイストを加えている。映画「王になった男」を観ながら研究したというMVは、日本でもよく民放で昼過ぎにやっている韓国の歴史ドラマを連想させ 、韓国の伝統音楽を取り入れたり、MVでメンバーが韓服を身に着けて踊っていたBTSの「Idol」とも重なる。
この曲の韓国語名、아낙네(アナンネ)とは「他人の妻」という意味で、英語名の「Fiance」というとちょっと違う。サンプリングされた原曲は”渡し場から入隊した兄に代わって、櫓をこいだ2人の乙女の船頭さんの物語を”盛り込んだ”恋人を待ち焦がれる切ない”(歌詞についてこちらで知りました)歌だ。つまりこの「Fiance」も手に入ることのない他人の妻を欲しがる欲望を男性のミノの側から歌っているという意味では、しっかりサンプリング・マナーに則っており、またそこに彼らしいセクシー(というかセクシャル)な魅力を付け加えた意味でテーマ的にも、しっかりと原曲をアップデートしている優れたポップ曲なのだ。若者がトロットにアクセスするきっかけにもなるだろう。
あと、ギターのリフの気持ちよさ、それから一回目のコーラスが終わった後に急に入る転調したような2小節、なんなんでしょう。変な快感です。
8. Red Velvet "Bad Boy"
Gaon Digital Chart最高位:2位
SM Entertainment所属の5人組。メンバーそれぞれバラバラの個性、英米のメインストリームのサウンドをダイレクトに吸収したサウンド、MVなどで見れるカラフルな世界観が魅力。そこには、Twiceが代表する少女性も無ければ、「大人らしさ」の強調もない。カラフルな色世界に染まっていく彼女たちは独自のアーティスティックな表現を探求し続けいているように思えるし、何より個々の楽曲のクオリティの高さからして、聴いている時の「楽しさ」が強く、私が一番好きなアイドル・グループでもある。SMの先輩グループ、Girl's GenerationやF(x)をアップデートしている部分もあると思う。
もしあなたがアメリカのポップ音楽を聴いている人なら、一度聴いただけでこの曲がBruno Mars「That's What I Like」に似ていることに気付くだろう。そうこの曲のプロデューサーはグラミー賞の"SONG OF THE YEAR"などを受賞した同曲でお馴染み、ステレオタイプスだ。トラップ・ビート(歌い出しの「who "dat" boy」というフレーズは意図的にUSラップとのリンクを試みているかのよう)にシンプルなシンセ・メロのループ。まさにマックス・マーティン以降の世界と、ラップがメインストリームな今の時代の模範解答のようなトラックにクラクラしてしまい2月には100回以上聴いた気さえする。
7. CIFIKA, Oh Hyuk "MOMOM"
42位にも登場した新鋭エレクトロ・プロデューサーと、Hyukohのシンガー、Oh Hyukのコラボ曲。MOMOMは「体と心」の意味。緊張感を与えてくれる、ミニマムな出だしからカオティックになる終盤(「怖くて怖い 目を閉じても見えて」と歌う)の静と動のコントラスト。同じリリックを交互に歌う男と(Oh Hyuk)女(CIFIKA)。そして生と死。ミステリアスな二項対立たち。「僕たちは果ての果てに行くとき 結局すべて(体も心も)葬らなくてはいけない」と歌われるスピリチュアルなリリックには、今生きている世界で定義付けられた全てのものもいつかは消え去る、というような無常観や諦念感を感じる。MVはNCT 127の「Cherry Bomb」やHyukohの「Leather Jacket」を手掛けたOui Kimによる。
6. LOONA - Hi High
LOONAのデビューEP『+ +』は、今年のベスト・アルバム、トップ10に入れたいほど気に入ったアルバムだ。34位でも紹介した「Favorite」、レゲトンぽい「열기」、フューチャー・ベースな「Perfect Love」、「Stylish」と、どれもが実験的でありながらキャッチーさを保った最高のポップ曲だった。でもその中でも狂ったように聴きまくったのがエレクトロ・ポップ曲「Hi High」。TwiceやOh My Girl、GOT7などを手掛けるMayu Wakisakaがここでも活躍。12人のメンバーが「ハーイ ハーイ」と歌うコーラスのインパクトからして最初は違和感ばかりだったが、キラキラと光るシンセ・メロ、アップテンポなビートは彼女達の輝くエネルギーを表している。でもなんだろう。実際この不思議な中毒性をまだうまく言葉に出来ないのだ。「恋とはセンター試験より残酷よ」「のり巻きのように餃子のようにあなたは甘いよ」そのリリックも含め私を混乱させる。
5. IU - BBIBBI
Gaon Digital Chart最高位:1位
IUほどあらゆる意味で独立したタイプのスター歌手がいるだろうか。大衆的な人気を維持しつつも、常に周囲のアイドルとも距離を置いたアプローチを取り、少女的でもパワフルやセクシーでも無いオルタナティブを提示してみせる。そんな姿に惹かれるのは私だけではないだろう。ここ数年も、(韓国の)80年代、90年代の歌謡曲のカヴァー集を出して見たと思えば、前作の「Palette」ではミニマムなエレクトロ・ポップ、そしてこの曲ではラップだ。まさに韓国の歌謡音楽の歴史を繋げてしまうポップ・スターなのだ。
このデビュー10周年記念曲で彼女は、機械的なトラップ/R&Bビートに合わせ、歌とラップを溶け合わせていく(メロディをなぞり始めたかと思えば、直ぐにラップに砕かれていく)。「Yellow C-A-R-D」や「Hello stup-I-D」みたいな言葉の使い方もまさにヒップホップ、R&B的なやり方だ。
「私のゴシップ/探索するライト スキャナーみたい」「この線を越えたら不法侵入よ」彼女を追っかける記者やファンたちに向けられた「警告」。そのテーマはSunmiと似ているが、MVからもわかるようにIUは強さや独立性の象徴としてだけ表現するのではなく、キュートさ、ユーモアさも兼ね備えて歌ってしまう。「大衆のイメージとは違う。でも自分の好きなことがちゃんと分かった」ことを歌っていた昨年の大ヒット「Palette」がそうだったようにここでも「自分を大事にするよ」と宣言する。独自に進化を続ける姿をこれからも追いかけたい。
4. JENNIE "SOLO"
Gaon Digital Chart最高位:1位
BLACKPINKのジェニのソロ・デビュー・シングル。
4人のメンバーそれぞれが歌、ラップ、ダンス共に完成されている完璧なガール・グループ、BLACKPINKから一番最初にソロ曲を発表したのはジェニだった。「男性への依存からの脱却」、「女性のエンパワーメント」といったテーマを、甘く歌い上げるヴァース、ブリッジではそれがパワフルになり、クールなラップ、華麗なダンスまで全方位なパフォーマーとしての説得力をもって表現。もはや一人四役だ。MVでもセクシー過ぎるランドリーのシーン、ラストのクルーを従えて踊る姿にはリアーナ的なダーティでデンジャラスな魅力さえ感じた。また、BIGBANGからBLACKPINKまでYG Entertainmentの専属プロデューサー、Teddyが手掛けたビートは間違いなく彼の今年のベスト・ワーク。ミニマムでスロウなヒップホップ・ビートが、終盤にハードなトラップに移る時の興奮は何度聴いても変わらない。チャート2週連続1位を記録。
3. HAON, Vinxen "BarCode (Prod. GroovyRoom)"
Gaon Digital Chart最高位:1位
17位にも登場した高等ラッパーの優勝者HAONとファイナリストの一人、Vinxenのコラボ曲がこの曲。なんとチャート1位を制したことからも番組、そしてラップというジャンル自体の韓国での人気が伺えるだろう。
GroovyRoom(このリストで何回登場しただろう)によるビートも白眉だが、何よりリリックに感動させられる。私はTURNの4月のベスト・トラックでこう書いた。”バーコードの白と黒を、光と闇、幸と不幸、精神の陽と陰、思い出の美しさと刹那の虚無へと、様々な二項対立へ移し替える想像力の深遠。希望を語るHAONと不安も吐露するVinxenという対照的なキャラ双方の複雑な感情表現の受け応えによって、闇がなければ光は存在しないということ、だからこそ希望だけでなく痛みや傷も抱えていて良いのだということを訴えている。” “番組への熱狂を超えて、日本と同じく自殺率が高い”ヘル朝鮮”の若者たちを勇気付ける、この国にとっての「1ー800ー273ー8255」と評したくなるパワーがここにある。”こんなの見てたらそりゃ韓国の少年誰だってラッパーになりたくなる!
2. DEAN "Instagram"
Gaon Digital Chart最高位:1位
元々はLAでEXOの楽曲などのソングライターとして活動。その後帰国してR&Bシンガーとしてヒットを飛ばす26歳。
「Bonnie & Clyde」や「Shut Up and Groove」などがそうだったようにフューチャリスティックな音使い、独特なビート、曲構成など、自身が影響されてきたコンテンポラリーR&Bに一味も二味も奇抜な色を加えることで常に唯一無二であってきたDEAN。この曲では、MVがそっくりそのままアルバム『Endless』のヴィジュアルを思わせるように、粗っぽいサウンド、ギターを駆使したスタイルでフランク・オーシャンの『Blond』を身に纏い、同時に自身とそのクルー"Club Eskimo"の音楽コンセプトである生の/rawなスタイルも見事に体現した。グローバルなR&Bシーンを見渡しても似たような音は見つけられない。しかし、そんな奇抜なサウンドなど何のその、この曲は公開されると直ぐにチャート1位を獲得。エッジー x ポップを両立する彼ほどに私が理想的で惹かれるポップスターはアメリカやイギリスにもいない。自作自演のスタイルでシーンの進化を買って出るDEANこそが「K-Popの宝」と呼べる存在だ。
1. Red Velvet - Power Up
Gaon Digital Chart最高位:1位
再生ボタンを押した瞬間目の前に広がるカラフルな世界。この曲は、Red Velvetの他のどの曲よりも彼女たちの魅力を端的に表現している。昨年の「Red Flavor」に続いてまたしても届けてくれた最強の夏のアンセム。中田ヤスタカなんかも使いそうなゲーム音に、BPM160の速いアップビート。ストレートにアイドル・ポップ然としていて「Red Flavor」や「Bad Boy」とは趣が異なるが、そうであるからか、この曲に夢中になっている自分に「英米のポップス好きが転じてK-Popに興味を持つようになった自分」ではなく「K-Popそのものが好きな自分」を感じた。極め付けは「バッナナーナ、バッナナ ナナナナ」という5歳の子供でも口ずさめるピュアなコーラス。そう、この曲には「Happy」や「Uptown Funk」がそうだったような、聴き始めた瞬間世界がカラフルに、ハッピーに変わっていくような不思議な魔法がある。
このリストをSpotifyのプレイリストにしました。
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新鋭シンガー・ソングライター、Rad Museumのこれまで
DEANについては、昨年末リリースした「instagram」が韓国のシングル・チャートで1位を獲得するなど、K-Popに興味のある人にとっては馴染みのあるアーティストですが、一方のRad Museumは作品は昨年出したEP『Scene』の一枚のみ。DEANを熱心に追いかけている人でも無い限り、あまり耳にしたことの無い名前だと思います。
本名をSo Haejoonとする彼は元々、CLUBESKIMOに所属しながらCamperという名前でグラフィック・アーティストとして活動していましたが、2016年12月、突如「Rad Museum」にアーティスト名を改名し、「Island」という曲をSoundcloudにアップします。(Soundcloudの楽曲ページは削除済み)
Rad Museum 「Island」
ヒップホップやR&B、エレクトロをやっているクルーの他の面々とは一線を画する、生バンド・サウンドに当時はびっくり。エルトン・ジョン (「Bennie and Jets」なんか)やベン・フォールズを想起させるピアノ・ロック的曲調からは、彼の「ポップス愛」や「ロック愛」的なものを感じ取りましたし、個性を強く打ち出しているなあ、という印象でした。
EP『Scene』で開花させた
ロック x ロウなサウンドとCLUBESKIMOの関係性
2017年10月、DEANが主宰するレーベル「you.will.knovv」 (2xxx!, Rad Museum, Miso, Reone, Prep, Dean)が所属する別クルーの名前でもある?)からEP『SCENE』をリリース。 ここで彼の音楽性は一気に進化しました。
特に印象に残るのはロックの影響の強さで、とりわけギターの役割が目立ちます。例えば「Dancing in the Rain」は繊細なアルペジオと中盤のピアノの伴奏がElliott Smithのエモさとリンクさせるし、ハードコアな「MADKID」なんかはジョン・フルシアンテばりのハードでブルース的なギター・ソロも聴かせてくれます。
(Live Session) Rad Museum - Dancing In The Rain ft. Jusén
そして、スロウでチルな時とハードな時のギャップを作るのも上手で、その静と動の世界観はとてもロック・バンド的で、かつDEANの作品にも似たロマンティックな雰囲気を持っていると思います。
チル・ヒップホップなビートにギターを乗せただけの「Over the Fence」、優しいキーボードの響き、星空に飛んでいってしまいそうなくらいMISOが歌うコーラスが美しい「Cloud」など序盤は「”静”の美しさ」に集中し、先述の「MADBOY」、作品中ではアップテンポな部類に入る「Tiny Little Boy」などでは「動」を以てクールさを演出しています。
「ロック」と同じくらい重要なのはサウンド(ビート)が「ロウ(粗い)」であること。例えばこのライブ・パフォーマンス(3:48〜)なんかは生演奏ではなくて、ビートを流してそこに歌を乗せるだけですが、最終的に「ビートもの」として収まる感じが、彼がDEANやCrushを中心に添えたCLUBESKIMOというクルーに属するアーティストであることを思い出させてくれます。このローファイなビートはメインストリームのK-Popのウェルメイドな感じとは対照的。そして、それはクルーの名前を"シベリア、カナダ、アラスカに住む、生(raw)肉を食べて暮らすワイルドな生活をするEskimo族"から取っている彼らに取って重要なポイントでもあるのです。
DEANとRad Museumの音楽的蜜月
そこで思い出すのが、昨年のシングル「Limbo」以降のDEANの作品です。
デビュー当初、特にAnderson . Paakと客演した「Put My Hands on You」からのDEANの特徴は90s R&Bにフューチャリスティックな質感をミックスしたもの。それが、「Limbo」収録の「The Unknown Guest」では、粗い録音っぽい雰囲気をわざと出していますし、この曲の音数少なめかつスロウなピアノのみのシンプルなつくりも注目に値します。
そして、決定的だったのは、昨年末にリリースされチャート1位を記録するなど大ヒットを記録した「instagram」。ここで突如、ギターが前面に登場します。MVがFrank Oceanの『Endless』そっくりなのも相まって、そのサウンドには彼のアルバム、『blonde』からの影響を強く感じますが、それと同時にこのギター x ロウなサウンドにはRad Museumのサウンドとのシンクロも気付かずにはいられないでしょう。先述のCLUBESKIMOのクルー名の由来を考えれば、彼にとってこうしたロウなサウンド自体はそれ以前から作りたかったコンセプトで、そこに『blonde』、Rad Museumとの関係が良い影響を与えたのかもしれません。
DEAN 「instagram」
そして先日、11月8日に公開されたDEANの新曲「dayfly」。元f(x)のソルリと共にRad Museumが歌詞を歌い、そしてそのサウンドはここでもギター x ロウなサウンドを展開しています。
DEANの今年の活動を振り返ってみると、「instagram」リリース以降は、レコーディングのためかロンドンに行ったり、(CLUBESKIMOではなく)you.will.knovvの面々とロンドン、アムステルダム、そして秋にはアジアをバンコク、クアラルンプールと回ったりしていましたね。その中でもRad Museumは創作面でもプライベートでもとても近い存在になっているのかもしれません。
アンダーグラウンドなラッパー達と交遊する一方で、EXOに楽曲提供したり、GIRLS GENERATION(少女時代)のテヨン、Suran、Heizeのようなメインストリームなアーティストとも共演するクロスオーバー・アーティストであるDEANとまだ無名のシンガーのRad Museum。影響力を持つ前者と、彼がフックアップする新鋭シンガー、彼らによる斬新なサウンド・コンセプトがどんな風に韓国で、ワールドワイドで動いて行くのか、注目です。
Rad Museum: instagramアカウント
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15. Kiha and The Faces "Cho Sim"
13. Zion T, Seulgi “Hello Tutorial”
12. Crush "None"
11. Dua Lipa, BLACKPINK "Kiss and Make Up"
10. SOHEE, Bolbbangan4 “Hurry Up”
9. Tiffany “Teach You”
8. Coogie Superbee, D.Ark, Changmo “saimsaim”
7. pH-1, Kim milli, Loopy, Paloolto “Good Day”
6. Ele “Out Of My Side”
5. Sik-K “FIRE (Prod. GroovyRoom)”
勢いのある若手MCを多数抱えるヒップホップ・レーベル、H1GHR MUSICに所属するラッパー、Sik-Kが、彼とってのパートナーと言ってもいいでしょう、人気プロデューサー・デュオとGroovyRoomと組んだ最新曲。「iffy」、「Blue Moon」なんかを聴いてもらえればすぐわかると思うのですが、今まで音数の少ない軽い感じのビートが多かったGroovyRoomが、「ヘヴィなロック」をやっていてびっくりしました。Sik-Kの衣装や身振り手振りなんかもまさにロック・ミュージシャンです。
こういうプロダクションってややもすれば、チージーでダサいものになってしまうものと思うのですが、そこはさすがGroovyRoom。ギターは歪んで厚みのある音ですが、全体的にはやはり無駄な音がない、というところは変わってない気がします。アメリカの今のアーティストでいうなら、ポップ・チャートでも売れているロック・バンド、Twenty One Pilotsのロックだけど、スカスカの音の一つ一つがヘヴィな感じ(だからメインストリームにフィットする?)と、Lil Peepとかのヘヴィなエモラップの合間にハマってる感じです。Sik-KもGroovyRoomも今月来日します。
4. fromis_9 “LOVE BOMB”
fromis_9(プロミスナインと読みます)はMnetのオーディション番組「アイドル学校」出身のメンバーによって結成された9人組。イントロの「ドッドドドド…」から強烈なインパクト。BPM154の高速なトラック、コーラスの「ラッバン ラッバン ラババン…」というフレーズといいものすごい中毒性で、先月は何十回も聞いてしまいました。で、クレジットを見て気付いたのですが、少し前にはLOONAの「Hi High」(今年のK-Popで一番好きな曲です)に参加していた日本人のソングライター、Mayu Wakisakaさんがここにも参加していました。考えてみれば、彼女が以前参加したTwice「Knock Knock」といい「Hi High」といい、K-Popの「バブルガム・ポップ」的な部分に彼女がよくフィットしているのだと思います。
3. Loco “It Takes Time feat. Colde”
Jay Parkが設立した、これもまたH1GHR MUSICと同じく人気ヒップホップ・レーベル、AOMG所属の人気ラッパー、Loco。彼は絶賛現在新シーズンが放送中の大人気、ラップ・サバイバル番組「SHOW ME THE MONEY」のシーズン1のウィナーであり、メロウなトラックと物憂げなラップで人気を博しています。今年春に出た「Don’t」では人気ガールズ・グループ、MAMAMOOのHwaSaとコラボし見事チャート1位も獲得しました(Loco自身がHwaSaの大ファンで「理想のタイプ」とも公言していたこともあってKBSの人気番組「鍵盤上のハイエナ」の企画でコラボが実現した)。ブルージーなギター、キーボードに導かれ「これ以上お酒を注がないで/理性の紐を切ろうとしないで」と大人なオーラーのHwaSaが歌うこの曲も大好きでした。8月にはSM Entertainmentのコラボ・シリーズ企画「STATION」の一環で、EXOのBAEKHYUNとのコラボ曲も出していて、メインストリームとのクロスオーバーも強いラッパーです。
話が長くなりましたがこの「It Takes Time」も、メロウなトラックに乗せて、「時間がかかるんだろうな」、「俺はまた新しい心配事に/一時間ですら耐えられずにいる」、「未だに慣れないんだこういう感情は」と元カノと別れた後の孤独、葛藤を臆することなく吐露するLocoらしい気怠い感じの曲です。その倦怠感のようなものが蔓延していて、曲としてもヴァース〜コーラス(サビ)〜ヴァースという流れの中でムードの上げ下げが無いのが心地よく感じられます。
2. NCT 127 “Regular”
先月もNCT Dream「We Go Up」をピックアップしましたが、今月も同じくNCTのサブ・グループ、NCT 127から。彼らの「Cherry Bomb」や「Chain」、先月ピックアップしたNCT Dreamの「We Go Up」といいNCTグループのトラックは、ドープなものばかり。ラテン・ポップとトラップをベースにしたこの曲(自分はDJでCardi B「I Like It」とBTS「Airplane Pt.2」なんかと繋げてかけたりしました)も、”キャッチーさ”と”ハードでエッジー"な部分の両立が理想的で、とても興奮します。特にヴァースの部分のトラックのミニマムさは新鮮に感じます。
そしてこの曲が収録されたアルバム『NCT #127 Regular-Irregular』がアメリカで86位を記録しました。これはK-Pop男性グループではBTSにつぐ記録です。先日はJimmy Kimmel Liveに出演したり、America Music Awardsのレッドカーペットに登場したりしていたようで、アメリカでがっつりプロモーションされています。それとは対照的にこんなにカッコいいのに、NCTは韓国での人気はそこまでではない。コアなファンがいるので、グループとして5作、アルバムとミニ・アルバムの1位を持っていますが、楽曲単位ではトップ10ヒットがありません。ただ逆に、もともと韓国、アメリカ、カナダ、中国、日本と5カ国出身のメンバーを擁していることもあってか、最初からグローバルなマーケットを見据えている印象です。同じく韓国国内では暫くトップ10ヒットの楽曲がないSuper Juniorもラテン系のシンガーと共演してBillboardのラテン・チャートにランクインするとか、同じ流れを感じますよね。
1. IU “BBIBBI”
1位は私の大好きな、今年25歳になったシンガーソングライター、IUのデビュー10周年記念シングルです。只今3週連続1位の記録を更新中。前作の「Palette」や「Black Out」でもビート・ミュージックへの接近という傾向は見られましたが、ここに来て一気にヒップホップ(Bryson Tillerなんかを思い出させる”トラップソウル”かAriana Grande「God is a woman」、Khalid, Normani「Love Lies」のようなR&B曲とも似ている)曲に挑戦。
「イエローカード/この線を超えたら侵犯だよ beep」と歌ってるこの曲は、誰に対して歌っているのか。大人の女性らしい目線で付き合いたての恋人との距離感を歌ってるのかと最初は思いましたが、歌詞をよく読んでみると、最初のヴァースでは「私のゴシップ」、「あの子」といった言葉が使われており、彼女を追っかけるファンや記者たちに対しても向けられているよう。次々変わる衣装…….少し外した感じの、可愛くもかっこよくもない、なのに彼女がやるからキュートな振り付け…….と、MVにも釘付けになります。
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12. Dok2, MK "Ready To Listen"
11. Kisune "Same"
10. Lim Changjung (임창정) "There has never been a day I haven't loved you (하루도 그대를 사랑하지 않은 적이 없었다)"
8. NCT Dream "1,2,3"
6. 로이킴 (Roy Kim) - 우리 그만하자 (The Hardest Part)
5. SUNMI "Siren"
男性に対して「危険な自分」の警笛を鳴らすこの曲で、ワンダーガールズのメンバーだったSUNMIは、昨年の「Gashina」に続く2曲めのチャート1位を獲得。ソロ・アーティストとしての人気を確固たるものにしています。高音のシンセをベースとしたトラックから感じられる、どこか80年代らしい煌びやかさはレトロな感じですが、それがまたEDMやトラップをベースにした周囲のメインストリーム曲とは一線を引いた魅力を持たせてる気がします。
4. Punch “Goodbye”
多数のOSTへの楽曲提供で人気を持つ、シンガーソングライターのPunchの「Goodbye」は「二度と誰も愛さないで/結局私のように苦しむから」というコーラスの通り、急な失恋の後の悲しい感情を抑えることなく歌った、聴けば聴くほど切なくなる一曲。一聴して歌詞の世界観に引き寄せるセンチメンタルなメロディが、「これぞバラードの醍醐味」と思わせます。
3. Woodie Gochild, Sik-K HAON, pH-1 “kitkat”
一番勢いがあるように感じます、人気のヒップホップ・レーベル、H1GR MUSIC(創設したのはJay ParkとプロデューサーのCha Cha Malone)に所属する4人のラッパー、Sik-K, pH-1, Haon, and Woodie Gochildによるコラボ曲。WOOGIEによる印象的なシンセ音のループを生かしたビートは、この曲と同じくYouTubeのチャンネル、Dingo FreestyleからMVが公開されたGroovyRoomによる「iffy」(ラップはSiK-K, pH-1, Jay Park)を思い出させてくれました。MVの縦長の画面はインスタグラムを意識したものなのでしょうか。
2. 슬기(SEULGI)X신비(여자친구)X청하X소연 'Wow Thing"
SMエンターテインメントが、毎週金曜日にリリースするコラボ企画「STATION」。その一環として企画されたこの曲はRed Velvetのスルギ、GFRIENDのシンビ、元I.O.Iのチョンハ、(G)I-DLEのソヨンと各グループの中で特に歌やダンスの実力が高いとされているメンバーが結集した強力な一曲。1st、2ndアルバムの頃のLily Allenを思い出させる レトロな雰囲気のR&Bビートの上で各々が培って来た自信を振りまいていきます。
1. NCT Dream “We Go Up”
NCT Dreamは、SMエンターテインメント所属のボーイ・グループ、NCTの中の7人組グループ。NCTは他にも全18人のメンバーからNCT U、NCT 127と多数の派生グループを持っています。トラックは今年「Mine」が全米11位の大ヒットした新人シンガーソングライター、Bazziが手掛けているんですが、この軽い感じのヒップホップ・ビートはファレル・ウィリアムスのそれも思い出させます。未成年の7人達が次の高みを目指そうとするはつらつとしたエネルギーを感じさせます。NCT Dreamのこの曲を収録したEP『We Go Up - The 2nd Mini Album』には他にもファレルっぽいギター・ループを用いた「123」って曲もあって全体的にとてもキャッチーかつアップリフティングな良い作品です。
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(Digital Chart=Streaming + Download + BGM) ()内は左から、(先週の順位)、(最高位)。
SHAUNが3週ぶりに1位に返り咲き。4位までの曲はどれも暫くトップ5圏内に居座りそう。(G)I-DLEがグループ初のトップ10入りを記録しました。Paul Kimがまた順位を上げているのが気になります。
再びトップ10に。
今週はBTSのニュー・アルバム『Love Yourself "Answer"』(といってもこれまでの『Love Yourself』シリーズ、"Her", "Tear"の楽曲に新曲7曲を加えたコンピ盤という位置付け)からの新曲が11位以下に大量ランクイン。このアルバムがリリースされたのが8/24なので2日しか対象期間に被ってないんですね。なので来週はこれらのうち少なくとも数曲はTOP10に入ってくるかも。
当ブログでの登場が2週目以降の曲はTV番組でのパフォーマンス映像を貼っていきます。
TOP10
1. (2) (1) SHAUN (숀) - Way Back Home
事務所/制作 DCTOM Entertainment
レーベル/流通 Warner Music
2. (1) (1) Red Velvet (레드벨벳) - Power Up
事務所/制作 SM Entertainment
レーベル/流通 IRIVER
3. (4) (1) Blackpink - DDU-DU DDU-DU (뚜두뚜두)
事務所/制作 YG Entertainment
レーベル/流通 genie
4. (3) (1) Twice - Dance The Night Away
事務所/制作 JYP Entertainment
レーベル/流通 IRIVER
5. (6) (4) MAMAMOO (마마무) - EGOTISTIC
事務所/制作 RBW
レーベル/流通 KakaoM
6. (5) (1) ZICO (지코) - SoulMate feat. IU (아이유)
事務所/制作 Seven Seasons
レーベル/流通 Sony Music
7. (9) (7) 폴킴 (Paul Kim) - 모든 날, 모든 순간 (Every Day, Every Moment)
事務所/製作 Shofar Music
レーベル/流通:KakaoM
8. (14) (8) (여자)아이들 - (G)I-DLE - 한(一) HANN(Alone)
事務所/所属 CUBE Entertainment
レーベル/流通 KakaoM
9. (7) (3) A-Pink (에이핑크) - I’m So Sick
事務所/制作 PlanA Entertainment
レーベル/流通 KakaoM
10. (8) (1) Bolbbalgan4 (BOL4) (볼빨간사춘기) - Travel (여행)
事務所/制作 Shofar Music
レーベル/流通 KakaoM
RISING
11. (NEW) (11) 10cm - Matress (매트리스)
事務所/制作 Magic Strawberry Sound
レーベル/流通 KakaoM
"人気デュオ「10cm」"と紹介したいところですが、昨年薬物問題でもう一人のメンバー、ユン・チョルジョンが脱退してしまい今はソロ・ユニットになっているよう。2年前のシングル「What The Spring」はチャート1位も取っている実力派です。
12. (NEW) (12) BTS (방탄소년단) - IDOL
事務所/制作 BIG HIT Entertainment
レーベル/流通 IRIVER
86位にはNicki Minajをフィーチャーしたバージョンもランクインしています。
57. (93) (57) Memory Fabricators (기억 조작단) - To Reach You (너에게 닿기를)
事務所/制作 Stone Music Entertainment
レーベル/流通 Stone Music Entertainment
オーディション番組「PRODUCE48」からの一曲。昨年ヒットした「PRODUCE101」が、名前の通り日本の48グループとコラボする形で今年ずっとやっていて先日ファイナルを迎え、つまり正式デビューする12人が決定(「IZONE」というグループ名になるよう)。全然番組は追えてないのですが、毎週のようにランキングが更新される過激なシステムらしく、これは48グループっぽさは無く、ほとんどPRODUCE101を受け継いでいるよう(特に日本から参加したメンバーが途中離脱したりもしてしまっているよう)。
パフォーマンス映像だけ見ると、どうしてもプロのアイドル・グループとの実力差は感じちゃうのですが、3年5年8年等練習生として鍛えられたアイドルでは無く、その実力を付けていく過程を見るのが何よりのオーディション番組の魅力。ということで、断片的にこういったパフォーマンスを見るのでは無く、やはり番組そのものを見てみるのが良いでしょう。
なお韓国では2009年〜の『スーパースターK』以来、最近ではラップ専門の『Show Me The Money』という番組が韓国でヒップホップを大衆的に根付かせるのに一役買ったり(昨年から放送された『高等ラッパー』からもチャート1位曲が出ています)と世界有数のオーディション番組大国です。
81. OVAN - 스무살이 왜이리 능글맞아 (Feat. 숀 SHAUN)
事務所/制作 Romantic Factory
レーベル/流通 Leon Entertainment
人気シンガー&ラッパー、OVANが今週1位の「Way Back Home」でお馴染み、SHAUNのプロデュースによる一曲。タイトルは直訳すると「20歳はどうしてこんなに図々しい」という意味のよう。大人の恋に触れるようになったことを歌っているのでしょうか。
96. (NEW) (96) Gaeko - Vacation (Feat. SOLE)
事務所/制作 Amoeba Culture
レーベル/流通 Stone Music Entertainment
Choizaと共にDynamic Duoのメンバーで、韓国の主要ヒップホップ・レーベの一つ、Amoeba Culture創設者でもあるGaeko。
ヴァケーションといっても海に行って騒いてという華やかなそれではなく、曲調の通り疲れや痛みから癒してくれそうな一曲。フィーチャリングのSOLEとコーラスが重なった時はより美しくなります。MVはドイツで撮られていますね。
ALBUM CHART PICK UP
2. (NEW) LOONA (이다의 소녀) - Hi High from ALBUM "[+ +]"
2週前の記事でシングル「Favorite」を紹介したLOONA。もう一度紹介しておくと、「韓国語名、이다의 소녀=今月の少女」の名の下に、一枚のシングルにつき一人のメンバーを発表していくという超異色なアイドル・グループです。12人のメンバーを紹介する12枚のEP(さらにグループ内ユニット、LOOΠΔ 1/3、LOOΠΔ Odd Eye Circle、LOOΠΔ yyxyそれぞれのEPも)出し追えて、遂に完全体となりました。これまでは各EPチャート10位台、しかしシングル・ヒットは出ていませんでしたが、このミニ・アルバムは大成功です。
この「Hi High」は日本人のソングライターでTwice「Knock Knock」などK-Popヒット曲にクレジットされているMayu Wakisakaさんが参加。「ハーイハーイ」というコーラスはあまりにクレイジー過ぎていたけど、「Favorite」「Hi High」以外もダンスホール、フューチャー・ベースなどトラックには一切の妥協なし。
MOMOLAND、(G)I-DLEと並んで、今年の新人王争いをしそうです。
]]>(Digital Chart=Streaming + Download + BGM) ()内は左から、(先週の順位)、(最高位)。
今週も動きが少なめ。レドベルが2週目の1位!後はPaul Kimが再びトップ10に。TOP10の後には、11位以下の初登場・上昇中の注目曲を取り上げています。
当ブログでの登場が2週目以降の曲はTV番組でのパフォーマンス映像を貼っていきます。
TOP10
1. (1) (1) Red Velvet (레드벨벳) - - Power Up
事務所/制作 SM Entertainment
レーベル/流通 IRIVER
2. (2) (1) SHAUN (숀) - Way Back Home
事務所/制作 Seven Seasons
レーベル/流通 Sony Music
3. (4) (1) Twice - Dance The Night Away
事務所/制作 JYP Entertainment
レーベル/流通 IRIVER
4. (5) (1) Blackpink - DDU-DU DDU-DU (뚜두뚜두)
事務所/制作 YG Entertainment
レーベル/流通 genie
5. (3) (1) ZICO (지코) - SoulMate feat. IU (아이유)
事務所/制作 Seven Seasons
レーベル/流通 Sony Music
6. (6) (4) MAMAMOO (마마무) - EGOTISTIC
事務所/制作 RBW
レーベル/流通 KakaoM
7. (7) (3) A-Pink (에이핑크) - I’m So Sick
事務所/制作 PlanA Entertainment
レーベル/流通 KakaoM
8. (8) (1) Bolbbalgan4 (BOL4) (볼빨간사춘기) - Travel (여행)
事務所/制作 Shofar Music
レーベル/流通 KakaoM
9. (11) (8) 폴킴 (Paul Kim) - 모든 날, 모든 순간 (Every Day, Every Moment)
事務所/製作 Shofar Music
レーベル/流通:KakaoM
初登場は12週(3月下旬)ロングヒットを続けています。
名前はよく見ていたものの、あまりバイオグラフィとか知らなかったので、自分も今から色々聞いてみよう、というレベルです。
ディスコグラフィなど日本語で出ているサイトが少ない中このページはしっかりまとまっています。
10. (10) (2) Blackpink - Forever Young
事務所/制作 YG Entertainment
レーベル/流通 genie
RISING
14. (NEW) (14) (여자)아이들 - (G)I-DLE - 한(一) (HANN(Alone)
事務所/所属 CUBE Entertainment
レーベル/流通 KakaoM
デビュー・シングル「LATATA」が新人グループながら大ヒット記録した(G)I-DLE(ヨジャ(女性の意味)・アイドルと書きますが、ヨジャは発音せず、アイドゥルとだけ読みます)。「新人グループながら」と書きましたが、YG, SM, JYPという3大事務所がありますが、これ以外の事務所ならなかなかデビューしていきなりトップ10に入るような活躍は流石に出来ないのではというイメージを私は持っております。「LATATA」は私も何十回、いや何百回と聴きました。Major Lazer「Lean On」などムーンバートン調の曲ですが、タイ人メンバー、ミニが甘く歌うブリッジ、「LATATA」を連呼するコーラスと兎に角これでもかと中毒性を撒き散らす、完璧な曲です。
わずか3ヶ月でカムバック。「LATATA」と同じくメンバーのソヨン(PRODUCE 101やUnpretty Rapstarといったオーディション番組にも出ていた)がソングライティングに参加。
私は中国人メンバーのウギ(YUGI/우기)が大好きです。
17. (NEW) (17) SEVENTEEN (세븐틴) - A-TEEN
製作 KakaoM
レーベル/流通 KakaoM
SEVENTEENのニューシングル、すごいいい曲!これはAprilのナウンが主演するウェブドラマ(YouTubeで見れます)「EIGHTEEN」の挿入歌だそう。韓国の今時の高校生活が舞台、日本語字幕付けたVer.もあります!!出てる人、皆かわいいのだけど!
プロデューサーのBUMZU+SEVENTEENのメンバーで曲は作られてるそう。iKON「LOVE SCENARIO」とかPENTAGON「SHINE」とかそうだったけど、クセになるピアノのループで始まって、とことんチキチキ言わせるトラップ・ビート。特にコーラスの部分がカッコいいです。爽やかな歌とクールなラップの緩急もこういうアイドル・グループならでは。
99. (NEW) (99) Hyolyn (효린) - BAE
事務所/製作 BRID3 Entertainment
レーベル/流通 Bug3
なんと9曲も一位の楽曲を持っているガールズ・グループ、Sistarの元メンバーだったHyolyn。昨年のグループ解散以来ソロ活動のエンジンを加速しています。昨年はGroovyRoomをプロデューサーに迎え、ラッパーのCHANGMOをフィーチャーした「Blue Moon」が最高位3位の大ヒット。透明感あるHyolynの歌声が、チル系なEDMを軸にしたビートの上で爽快に響くとても良い曲でした。今年に入ってからもラッパーのGRAYをフィーチャーした「Dally」はTinasheが歌ってもおかしくないようなタイトなビートを乗りこなす彼女のラップ、そして何よりMVで見れるダンスから今一度彼女の実力を証明する一曲。
それらと比べると、ピュアなポップ・チューンにトラップを混ぜた、という感じのこの曲は「この夏はあなたといたい」という歌詞も含めだいぶシンプルに。トリッキーなビートやダンス系の曲を乗りこなしている時の方が私は好きかも。
ALBUM CHART PICKUP
1., 2., 4. (NEW) (1) SUPER JUNIOR D&E (동해&은혁) - 'Bout You from ALBUM 'Bout You - "The 2nd Mini Album"
事務所/製作 SM Entertainment
レーベル/流通 IRIVER
シングル・チャートには入ってませんが、SUPER JUNIORのウニョク、ドンへから成るユニット「D&E」のセカンド・ミニ・アルバム『'Bout You』がアルバム・チャート上位5位のうちの3つのポジションを独占しています。コレは「D&E Ver.」「ドンヘ Ver.」「ウニョク Ver.」の3形態があるため。
]]>アメリカのビルボード、イギリスのOfficial Chart Company、オーストラリアのARIAに当たるものとして、韓国ではGaonというチャートがあります。その中の「Digital Chart」がシングル曲の総合チャートとされているので、そのトップ10をピックアップ。その中で、勿論全部はキリがないので、原則、初登場曲、上昇中の曲のみ言及することとします。
なぜこの企画をやることにしたかは、後々ちゃんと書こうと思います。
今週はなんといってもRed Velvetのサマー・ミニー・アルバム『Summer Magic』からのシングル「Power Up」です。その他はiKONの新曲がトップ10入りした以外は大きな動きなし。では↓↓↓
2018年第32週目 (08.05 ~ 08.11)の、韓国ナショナル・チャート。(Digital Chart=Streaming + Download + BGM)
()内は左から、(先週の順位)、(最高位)。
1. (NEW) (1) Red Velvet (레드벨벳) - Power Up
事務所/制作 SM Entertainment
レーベル/流通 IRIVER
大好きなRed Velvet(3月の初の日本での単独公演も行きました)の新曲!当然のように1位!と思ったけど、これが彼女たちにとってはまだ2曲目の1位。前回は今回と同じく夏の曲「Red Flavor」(私も一番好きな曲!)と。
ここ数曲「Peek A Boo」、「Bad Boy」と抽象的な世界観(逆にこちらに決まりきった「解釈」を与えない、それがレドベルなんだなあ、なんて思っていたけど)の曲が続いていたところに、ど直球にキュートな一曲!「バナナ〜」のフレーズが頭から離れないです。
サウンド的にもトロピカルハウスの「Peek A Boo」、Bruno Mars「That’s What I Like」と同じステレオタイプス作のトラップ「Bad Boy」とは違って、捻りが少ないというか「普通のアイドル曲だなあ」なんて最初は思ったのですが(とても偏見くさいですね)、BPM160くらいの軽いエレクトロ・ビートが超気持ち良く、「中田ヤスタカが参加してます」と言われてもおかしくないゲーム音、兎に角病みつきにさせる要素が詰まってます。(トラックについてはもっと突き詰めたほうが良いですね)
ただ何よりティーザーやポスターからもわかった今回のカラフルなヴィジュアル、「Red Flavor」の時を思い出させますが、本当に最高です。フルーツ、ジュース、カラフルに塗られた部屋...溺れます。「これぞレドベル!」な一曲だと思います。私は去年もレドベルの「Red Flavor」がナンバーワン、サマー・アンセムだったのに今年も!ってなってます。本当にハッピーになる。
2. (2) (1) SHAUN (숀) - Way Back Home
事務所/制作 DCTOM Entertainment
レーベル/流通 Warner Music
2位のSHAUN、ロングヒットしてます。(初登場曲でも上昇中の曲でも無いですが、名の無い人のようなので少し。)まさに「今のEDM」って感じ。昼間にビーチでブチ上がりたい感じでもなく、深夜のクラブで聴きたい感じでもなく、「夕方にチル」っていう感じ。ヨーロッパを中心にJonas Blueの「Rise」が流行ってますが(イギリスでは最高位3位)、コレとかなり近いものを感じます。EDM、うまく時代の変化に順応してるな、って。感傷的なメロディは、アイドル・シンガー歌っていてもおかしくない感じで、チェーンスモーカーズがそうだったようにチージーではあるけど、私はやっぱこういうの好きです。
3. (1) (1) ZICO (지코) - SoulMate feat. IU (아이유)
事務所/制作 Seven Seasons
レーベル/流通 Sony Music
4. (3) (1) Twice - Dance The Night Away
事務所/制作 JYP Entertainment
レーベル/流通 IRIVER
5. (4) (1) Blackpink - DDU-DU DDU-DU (뚜두뚜두)
事務所/制作 YG Entertainment
レーベル/流通 genie
6. (5) (4) MAMAMOO (마마무) - EGOTISTIC
事務所/制作 RBW
レーベル/流通 KakaoM
7. (6) (3) A-Pink (에이핑크) - I’m So Sick
事務所/制作 PlanA Entertainment
レーベル/流通 KakaoM
8. (7) (1) Bolbbalgan4 (BOL4) (볼빨간사춘기) - Travel (여행)
事務所/制作 Shofar Music
レーベル/流通 KakaoM
9. (19) (9) iKON - KILLING ME
事務所/制作 YG Entertainment
レーベル/流通 genie
10. (8) (2) Blackpink - Forever Young
事務所/制作 YG Entertainment
レーベル/流通 genie
11位以下の上昇中の曲、注目曲
23. (27) (23) BEN (밴) - 열에주
事務所/制作 Major9
レーベル/流通 genie
圏外 (-) (-) 이달의 소녀 (LOOΠΔ)- favOriTe
事務所/制作, レーベル/流通 BlokBerry Creative
2016年10月以来、一枚のシングルにつき一人のメンバーを発表していく、という超異色なアイドル・グループ。そのやり方通り、韓国名「이달의 소녀」の意味は「今月の少女」。「かわいい」というよりは、制服を着ながらも無機質な感じのクールさだったり、Grimesとの共演が話題になったグループ内ユニット、yyxyの「love4eva」はど直球のアイドル・ソング&キラキラの笑顔だったり兎に角掴み所のないイメージで、何と無く気になり続けてました。この曲がメンバー12人揃っての初シングルとのこと。
ヴァース中のシンセの音を中心にやたらと忙しないトラック、ブリッジのヒップホップ・ビート、コーラスのフレーズ"〜까찌"(カジ/"〜まで"の意味)(曲中では"頭からつま先"など)の妙な中毒性、舌を巻いて言ってるのは「ル〜ナ」なのかな?、など病み付きにさせる曲。攻撃的な曲を、大人っぽいとかカッコいいといったイメージを纏うことなくやってしまっていて、やっぱり不思議なグループ。YouTubeでは公開10日足らずで300万回以上公開されているし、トップ100にも入らないのはちょっと謎。
]]>
その一挙手一投足で常にインターネットに話題を提供するラッパーといえば、ある時期までそれはDrakeだっただろう。彼の交際関係は然る事ながら、Meek Millとのビーフや、インターネット・ミームとなった「Hotline Bling」でのへなちょこダンス、音楽面でもジャマイカのダンスホールやロンドンのグライムへの接近...。特に2015年は彼の名前を聴かずに一週間が終わることは、いや一日が終わることは無かった。
ただ、そのDraek以外を見てみれば、同じ頃からアメリカのポップ・ミュージック・シーンにおけるホットスポットは紛れもなく多くの新鋭ラッパーが登場していたアトランタのヒップホップ・シーンだった。ここ3,4年ほどの間で名を上げたアーティストを挙げていけば、ラッパーにはFuture、ILoveMakonnen、Rae Sremmurd、Migos、Young Thug、Silento、21 Savage...。プロデューサーにはMetro Boomin、Mike Will Made-It、Southside、Sunny Digital、London on da Truckなどがいる。そもそもアトランタという土地はLAリードがラフェイス・レコードのオフィスを置いた89年以降、TLC、Timbaland & Missy Elliottのペア、Outkast、T.I.らの存在が示すように常にモダンなヒップホップやR&Bの中心地の一つであったが、ここ3年ほどで更に勢力を強めた。先述のとおり沢山の活きのいいアーティストの名前が浮かぶが、ミックステープ『Lil Boat』をリリースした2016年2月以降、頭一つ抜けて多くの話題を提供しているアーティストがLil Yachtyだ。
ほぼ無名の状況でスタートした2016年、1月にはApple Music中のラジオ局Beats1でDrakeが持つ番組「OVO Sound Radio」で「Minnesota」がプレイされ、2月にはKanye WestのYeezy Season 3のファッション・ショーにモデルで出演、5月にはChance The Rapperのアルバム『Coloring Book』収録のYoung Thugとの「Mixtape」で客演、6月にはアメリカの若手ラッパーの登竜門的なXXL MagazineのFreshman Classリストに選出、遂にメジャー・レーベルのCapitol Recordsと契約するなどLil Yachtyの名前はヒップホップ・シーンで急上昇した。
そして4月にリリースしていたD.R.A.M.とのコラボ、「Broccoli」が9月にはビルボード・ホット100でトップ10入り、最高位5位を記録しいくつかの媒体の年間ベスト・ソングの上位にも名を連ねた。更に12月にリリースしたKyleとのコラボ「iSpy」も年が明けてから最高位4位まで上昇。Charli XCXやCarly Rae Jepsenらとのコラボも話題になるなどメインストリームでもおなじみの名前となり、その特徴的なヘアスタイルと合わせて新たな時代のポップ・スターとなることさえ予感させている。
その一方これまでのヒップホップの常識を打ち破る独特の音楽性や発言で一部から批判を喰らうことも少ない。そんな良くも(人によっては)悪くも新しい価値観を提供しながらスターに押しあがってきたLil Yachtyが遂にデビュー・アルバム『Teenage Emotions』をリリースする。この一年ちょっと、あまりに彼に関するニュースが多過ぎた。もちろんそれは良い意味で。ここで改めて彼のどこが革新的で、このアルバムによってLil Yachtyがどんなアーティストになっていくことが期待できるのか、述べてみたいと思う。
1. ヒップホップの常識を変えるLil Yachty
●音楽性
Lil Yachtyは何よりその独特のフロウが衝撃的だった。どこか不安定な心地のビートにきらきらしたシンセのメロが耳を惹くトラック、ラップというよりは、高い声でメロをなぞっていくような可愛らしいフロウ。それを反映するように、リリックも「ストリート」、「ドラッグ」とか「ハード」といった類の言葉を全く連想させないし、子供の欲望がそのまま言葉に落とし込まれたようなものだ。
そのトラップ由来のゆるいビート自体は、冒頭で名前を挙げた同郷のラッパーたちとも繋がるし、特に2014年に「Tuesday」でDrakeにフックアップされたILoveMakonnenはよく引き合いに出される。ここ数年の特にアトランタから出てくる若手ラッパーのリリックは、その”意味の無さ”から「ポスト・テキスト・ラップ」と呼ばれているが、Lil Yachtyも彼らと同じ枠に括ることが出来るだろう。だた、人気アニメ、RugratsやCharlie Brownのテーマ・ソングでラップしている彼の世界観は、日本でも”幼児退行”と形容されポスト・テキスト・ラップのその先を行っている。
●ファッション・デザイン
Lil Yachtyが斬新だったのはその音楽性だけでない。彼の、ビーズを編み込んだ三つ編みヘアやミックステープなどのアートワークなど、彼とそのSaillingTeamが手掛けるファッションやデザインも特徴的だ。私にとって男性中心的なヒップホップを象徴する色といえば黒なのだが、Lil Yachtyは常にカラフルだから新鮮だ。独特なセンスを持つ彼のファッションは音楽シーン以外も惹きつけている
三つ編みヘアと歯のグリルがインパクト大なLil Yachty
ミックステープ『Lil Boat』のカバーアート
「All In」のMVでSailing Teamのマーチャンダイズを纏ったヨッティとクルー・メンバーたち
Kanye WestのYeezy Season 3への参加以外にも、アパレル・ブランド、ノーティカのクリエイティブ・ディレクターに就任したり、PUMAとラッパーのYoung Lによるブランド、Pink Dolphinがコラボしたラインのモデルに選ばれるなどファッションから界もラブコールが止まない。
●スタンス アーティスト性
ヒップホップの常識を覆すようなラップのフロウやリリック、そしてファッションにおける斬新さの裏には、Lil Yachtyならではの独特のアーティスト性やスタンスがある。
まずブレイク作、『Lil Boat』のタイトルは彼のニックネームそのものだが、アーティスト名のYachty、自身がクリエイティブ・ディレクターも務めたNAUTICAのブランド名がラテン語で「船」を意味するNAUTICASからきていることなど、一貫して船、ヨット、ボートなどへの愛を示している。これはリリックやファッションのファンタジー感とも共通するだろう。
Lil Yachtyが出演したNauticaのキャンペーン・ビデオ
また、ヨッティはこれまで「シリアスなラップは嫌い」や「2 PacとNotorious B.I.Gの曲は5曲も知らない」といった発言が大きな反響を呼び、特に古くからの保守的なヒップホップ・ファンの怒りを買ったり、ルーツに忠実な音楽家、Anderson .Paakから批判のコメントを受けるなどその物議を醸すような言動でも話題を提供してきた。だがそういった反応に対しても、「どこかにヒップホップの教科書があって、そこには『曲を作るために知らないと恥ずかしい曲リスト』が載ってるのかな 笑」とツイートして応答するなどあくまで楽観的だ。先述の発言自体は賛否両論あるだろうが、ここまで潔くポジティブな彼のスタンスも新時代的で、興味深いものだった。
また彼は一切酒やドラッグに手を出さないという。インタビューでは、「僕はクラブが嫌いなんだ。全く好きじゃない。酒も飲まないし、タバコも吸わない。だからクラブは落ち着かないんだ。退屈だよ。ずっとじろじろ見られるしね。」と答えている。どうりでリリックにこれらのテーマが出てこないわけだが、昨今のアトランタを中心としたトラップのビートに乗せたラップにはダンス・ミュージックとしての快楽も大いに感じていただけに「クラブが嫌い」という発言からは彼が如何に周囲の同郷のラッパーとも異なっているかが受け取れた。他にも「ピザしか食べない」、「野菜を食べたことが無い」など彼からの様々な驚きの発言に楽しませてもらった。
彼の音楽やファッションの個性は全てこうした独特なスタンスと共にあり、彼はその自分らしさを表現することに一切臆しない。
音楽性、ファッション、そしてそのスタンスなど全ての面で彼はヒップホップの常識を覆している。
2. 歴史から学ぶLil Yachtyの革新の重要性
確かにLil Yachtyのスタイルはこれまでのヒップホップのルールを破り、悪くいえばルーツを軽視していることになる。ただ、これまでもヒップホップの新しい主流を築いてきたのはそうした常識を覆す革新性を持ち込んだアーティストだった。
この項目については併せてFNMNLのこの記事と、それが基にしているComplexのコラムも読んでいただきたい。
例えばアルバムごとにヒップホップ以外のジャンルを飲み込んでいく音楽的変貌で常にジャンルを超えて賞賛され続けているKanye Westは、2008年の『808’s and Heartbreak』で多くの人にとってのヒップホップへのイメージを180度変えた。このアルバムで彼は母の死や恋人との別れを受け、それまでロックの領域だった「憂鬱」をテーマにラップを辞めオートチューンによって加工された声で歌うことに注力した。(そしてドラムマシンの名機TR-808を重用したビートは徹底的にミニマムだった。)彼のこの試みが無ければ、(この直ぐ後に登場した)儚げに女性への愛を優しく、そして女々しく歌うDrakeがここまでトップ・スターになることは無かっただろうし、最近のTravis Scottや21 Savageのダークさもそう簡単には受容され難かったはずだ。そんな『808’s and Heartbreak』も発売当初はいまのヨッティの立場と同じくネガティヴな評価も多かったのだ。
また、2010年頃より名を上げたクルー、Odd Future (Odd Future Wolf Gang Kill Them All)もゴキブリを食べるMVがついつい印象に残ってしまうTyler, The Creatorのような好き放題加減や、同性愛がタブーだったと言って過言でないヒップホップ、R&B・シーンでそれぞれゲイ、レズビアンであることをカムアウトしたFrank Ocean、Sydなど新しい価値観を提示した。
さらに、現在主流となっているFutureやYoung Thug、Migosらのアドリブやオートチューンの使い方も5年くらい前までは、その奇声の発し方やロボ声の使い方・目的などは全く異なっていたはずだ。
こうしたそれまでのヒップホップの常識を覆すような斬新なアイディアや試みがその度に議論を呼びながら結果的にジャンルの表現の幅を拡大してきた。Lil Yachtyもここで名前を挙げた面々と同様に新しい価値観を提示することでヒップホップを進化・前進させているといえるはずだ。こちらのインタビューでの発言のように、彼がTyler, The Creatorから大きく影響を受けているのも納得だ。
3. 既に支持を得ている
そんな常識破りのアーティストであるLil Yachtyが時に批判も浴びながらも既に多くの大衆の支持を得ていることは重要な事実だ。それは彼のスタイルを肯定する大きなファクターとなる。
まずD.R.A.M.との「Brocolli」、Kyleとの「iSpy」はビルボード・ホット100のトップ10入りを果たしているが、この2曲で彼らは自分たちのスタイルそのままにその成功を成し遂げた。いまや彼らのルーズでファンタジーのような世界観がメインストリームの一つになりつつあるということだ。
また昨年10月にはChrali XCXと、今年2月にはCarly Rae Jepsenとのコラボ・シングルを発表した。前者はPCミュージックの尖ったベース・サウンドも取り入れるなど常にエッジーなポップ・シンガーであり、また後者もDev Hynesらと共演しながら80sライクな上質なポップ・ソングを歌う。両者に共通するのはポップとインディの境界を巧みに切り開くことで、広い磁場で支持されているということ。
例えば同じメインストリームのシンガーといっても、コレが彼と近いR&Bシーンのシンガー、最近の客演ヒットで例えるならAlessia Caraであったり、少し前まではその支持層がキッズかティーンに限定されていたSelena Gomezだったりしたら曲に対してまた違ったイメージを持っていただろう。ヒップホップ的とはいえないファッションやデザインを標榜するヨッティがポップやインディといったリスナー層を取り込めるシンガーと組むこと自体は自然なことだが、意図してこの2人との共演を選んだのなら戦略的だ。
さらにはヨッティのSailing Teamのメンバーであり、女性版Lil Yachtyと言いたくなるようなKodie Shane、ヨッティのスタイルを「ゆるふわ」と解釈した日本のRyugo IshidaとSophieによるユニット、ゆるふわギャングなど、彼のスタイルが模倣された若手が台頭していることも忘れちゃいけない。
4. デビュー・アルバム『Teenage Emotions』が遂にドロップ!
●彼のスタイルを象徴する先行曲と客演陣
そんなあらゆる面で注目が集まる中先日ついにリリースされたデビュー・アルバム『Teenage Emotions』はここまで述べてきた彼のこれまでの革新性や独自のスタンスを象徴するような作品になっている。先行公開された曲はシングル「Bad And Boujee」とアルバム『Culture』が共にチャート1位の大ヒットを記録したいまノリに乗っているラップ・グループ、Migosをフィーチャーした、ヨッティといよりはMigosらしいハードかつダークな「Peek A Boo」、80年代のエレポップ調「Bring It Back」、ヨッティらしいゆるふわビートxバカなリリックの「Harley」など、 “普段のヨッティ” もあればそれに対しての左へ右への振れ幅も非常に広い、まさに彼らしい柔軟な選曲となった。
また、幅が広いのは楽曲だけでない。客演しているアーティストも、先述のMigosやYG、Kamaiyah、Stefflon Donといった若手ラッパーから、プロデューサーとしてもMajor Lazerとしてもお馴染みDiplo、更にはK-Popスターである元2NE1のラッパー、CLと楽曲同様にカラフルなセレクトだ。
●アルバム・タイトルが意味するもの
また、アルバム・タイトル『Teenage Emotion』のきっかけになったともいえるこのインタビューでの発言は、ヨッティのスタンスをよく表している。
「僕はティーンエージャーのために作ってる。誰かと付き合っていたり、別れたばかりだったり、それか、幸せで満足してるティーンエージャー。物語りのスタイルが好きなら、それもクールだけど、僕のはだいたいティーンエージャーの感情がテーマなんだ」
ティーンといえば人生の中で最初に自分らしさに気づく時期。アートワークにはLil Yachtyの周りにキスをするゲイのカップル、太った女性、ホワイトにブラック、あらゆるカラーを持った人たちが映されている。自由な発想を土台に、自分らしさを音楽やファッションで表現する。それがLil Yachtyであり、ティーンにとってのロールモデルにもなり得る新たなポップ・スターなのだ。
Lil Yachty - 『Teenage Emotions』Track List
Release: 2017.05.26
Label: Quality Control / Capitol Records
1. “Like a Star”
2. “DN Freestyle”
3. “Peek A Boo” Feat. Migos
4. “Dirty Mouth”
5. “Harley”
6. “All Around Me” Feat. YG & Kamaiyah
7. “Say My Name”
8. “All You Had to Say”
9. “Better” Feat. Stefflon Don
10. “Forever Young” Feat. Diplo
11. “Lady in Yellow”
12. “Moments in Time”
13. “Otha Shit” (Interlude)
14. “XMen” Feat. Evander Griim
15. “Bring It Back”
16. “Running With the Ghost” Feat. Grace
17. “FYI (I Know Now)”
18. “Priorities”
19. “No More”
20. “Made of Glass”
21. “Momma” (Outro) Feat. Sonyae Elise
LW (-), Peak (1), On Chart (-)
2. Superorganism / It's All Good
LW (NEW), Peak (2), On Chart (1)
3. hyukoh (혁오) / TOMBOY
LW (NEW), Peak (3), On Chart (1)
4. Future / Mask Off
LW (-), Peak (-), On Chart (-)
5. ZAYN / Still Got Time ft. PARTYNEXTDOOR
LW (-), Peak (-), On Chart (-)
6. Goldlink / Some Girl ft. Steve Lacy
LW (-), Peak (-), On Chart (-)
7.효린(HYOLYN) X 창모(CHANGMO) / BLUE MOON (Prod. GroovyRoom)
LW (-), Peak (-), On Chart (-)
LW (-), Peak (-), On Chart (-)
9 .Cashmere Cat / 9 (After Coachella) Ft. M.O & Sophie
LW (-), Peak (-), On Chart (-)
LW (-), Peak (-), On Chart (-)
11. Lil Uzi Vert / XO Tour Llif3
12. Calvin Harris/ Heartstroke ft. Pharrell Williams, Young Thug, Ariana Grande
13. IU (아이유) / Palette ft. G-Dragon
14. Lethal Bizzle / I Win ft. Skepta
18. Rex Orange County / Untitled
19. Jorja Smith / Beautiful Little Fools
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Frank Oceanにプレイされたことでも話題の
今年最も予想外で謎多き新人、Superorganismの新曲はこれまた超キャッチ―。
リピートせずにはいられない!
2017年最も予想外、そして謎が多いニューカマー、それがSuperorganismである。超個体を意味するバンド名からしてパンチがあるが、17歳の日本人、Oronoを中心とする8人組の集団は1月末に公開したデビュー・シングル「Something For Your M.I.N.D」でインターネットをざわつかせた。全くの無名のバンドのデビュー曲が、Apple Music内のラジオ局、Beats1でFrank Oceanにプレイされたのだ。その中毒性溢れるミステリアスなポップ・ソングは多くのリスナーを夢中にさせ、彼女たちの奇妙なバンド名は一瞬で知れ渡ることとなった。そんなSuperorganismが新たな楽曲、「It’s All Good」を公開した。デビュー曲同様にハイパー・ポップで、”喜び”、”幸せ”、”楽しさ”といったフィーリングでいっぱい。そして何より何度もリプレイしたくなる一曲だ。
*「Something For Your M.I.N.D」は楽曲中のサンプルの著作権の問題で揉めたためかストリーミング・サービスからは消えている。こちらの非公式なYouTubeのポストでのみ聴くことが出来る。
今回もゆったりとしたビートに、骨太なベース・ライン、たくさんのボイス・サンプルが散りばめられ、それらが加工され、そして印象的なポーズがありと、試行錯誤の末の巧みな構成の楽曲だ。そして韓国語への言い換えも含んだ掛け合いによるサビも最高にキャッチ―でアンセミック。サイケデリックなポップ・ソングとしてはGrouploveや初期のMGMTを思い出させるが(本人たちはThe Flaming LipsやDEVOの影響を挙げている)、リズム感、サンプルの処理の仕方はヒップホップやR&Bも経由している。
やはり何より興味を惹くのはリリックからも読み取れるポジティブなムードだ。オロノへ「おはよう、目が覚めたね。外の天気は暗い。起きるかい?それともひょっとして何もしない?」と語りかけるところから始まり、その後も「私はまだ17歳。まだ夢の途中なの」を初め終始前向きなメッセージで溢れている。更にサビ後に挿入された自己啓発作家、Tony Robbinsのスピーチのサンプルがダメ押しする。
彼女たちについては兎に角謎が多いがどうやら8人のメンバーのうち日本人のOronoのみアメリカ北東部ニューイングランドのメイン州に在住し、他の7人はロンドンに住んでいるらしい。インターネットで常にやり取りをしているのだろうが、トラックメイカーやラッパーといった類では無いので、結成の経緯から楽曲制作のプロセスまでとても気になるところだ。全くアーティスト写真のようなものは出回っていないが、興味がある人はOronoのsoundcloudやInstagramのアカウントを覗いてみるといいだろう。彼女自身によるWeezerやPavemenetのカヴァー、彼女が描いた才能溢れる絵画を拝見できる。
またOronoが以前Twitterでシェアしていた自作のSpotifyのプレイリストからはSuperorganismの音楽性の影響源と言われても納得なアーティストが並んでいる。The BeatlesやBeach Boysといった60年代〜Carol KingやBilly Joelといった70年代の大御所から、より現代のTobias Jesso Jr.、Carly Rae Jepsenといったポップ、The Beta BandやtUnE-yArDsのようなサイケデリック、バンド・サウンドとして影響を与えているであろうCocteau Twins、Frankie Cosmos、The Moldy Peaches、更に軽快なビート感が彼女たちと重なるSolangeやNo Nameのようなヒップホップ・R&Bまでかなり幅広いセレクトだ。バンド中で彼女が果たしている役割はとても大きそうな感じがする。
うーん、It’s All Good!
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SpotifyやApple Musicのようなストリーミング・サービスを駆使しながら、毎週末新作アルバムをオン・タイムでダウンロードして聴いて…という生活をしている方には、今週も大忙しとなりそうです。ダーティ・プロジェクターズに始まり、サンダーキャット、そしてフューチャーの二週連続リリースと今週も注目作のリリース・ラッシュ。「どれから聴いたらよいのやら...」と悩んでしまう方もいるかもしれませんが、当ブログが熱を持ってお薦めしたいのは、イギリスからグライムの新たなキング、ストームジーによる待望のデビュー・アルバム『Gang Signs & Prayers』です。このアルバムを外して今週のリリース・ラッシュを楽しみ切れたとはいえません。
では、何故このストームジーのアルバム『Gang Signs & Prayers』がそれほど注目すべきアルバムなのか。まず、当ブログでも2015年12月に大々的にお伝えした通り、グライムはここ数年ルーツに立ち返りながら復活を遂げ、また同時に2010年以降のベース・ミュージックやトラップのうねりも受けながら新たな進化も見せました。
>>The New Wave of GRIME 〜グライム/UKヒップホップで2015年起きたことと台頭する新世代のMCを知る
中でもストームジーはその流れを象徴する存在です。イギリスのブラック・ミュージックの祭典、MOBO Awardで2014年と2015年に二年連続でベスト・グライム・アクトを受賞したほか、2015年にはその年期待の新人がリスト化されたBBC Sound ofで3位に選出。つい先日はベスト・ブレークスルー・アクトにノミネートされたBrit Awardでエド・シーランと共にパフォーマンスもしました。こうした実績を並べただけでも、彼が2000年代のグライム・シーンの首領 ―ワイリー、ディジー・ラスカルら― に代わる新たなキングと称されている理由がわかっていただけるのではないでしょうか。
イギリスではグライム/ヒップホップといえば昨年はスケプタがマーキュリー賞を受賞したり、他にもカノーやギグスらベテランMCが揃って新作アルバムをチャート・トップ10に運びました。しかし、2010年台に登場した新世代MCの本格的なアルバム・ショーケースは、ストームジーのこの『Gang Signs & Prayer』が初めてなのです。新世代のグライム・キング、ストームジーがアルバムによってその力を示す瞬間は、グライムが再び息を吹き返してからのここ3年間ずっと待たれていた瞬間なのです。そんなわけでこのアルバムは、イギリスのポップ・ミュージック界で最も待望されていたアルバムと言っても過言ではありません。
といっても、今日の今日までグライムという音楽もストームジーというアーティストもあまり聴いていなかった、そんな人も少なくはないはず。
そこで今回は、このストームジーのアルバム『Gang Signs & Prayers』を楽しむためのポイントを4つに分けて紹介してみます。
1. グライムの新たなキングを通して
"グライムとは何か"を知る
「そもそもグライムってどんな音楽かわからないし…」そんな人もこのアルバムを聴けば万事解決です。なぜなら、ストームジー自身が誰よりもグライムとは何かを示してきたMCだから。
『Gang Signs & Prayer』の2曲目、「Cold」には次のようなラインがあります。
― I just went to the park with my friends, and I charted ―
「友達と公園に行っただけ、それでチャート・インした」これは紛れもなくストームジーの2015年のシングル「Shut Up」のことを述べています。
この曲でストームジーはDJ XTCによるオールド・スクールなグライム・ビート、「Function On The Low」の上でハードなフリースタイル・ラップを披露。この一曲によって00年前後に作られたグライムの音楽スタイルが丸わかりです。この曲はリリース後数か月かけてフリースタイル・ラップの史上初の快挙となる全英シングル・チャート、トップ10入りを果たし、ストームジーのブレイクに一躍買いました。
もう一つこの曲で注目すべきは、友達と近所の公園で撮影しただけという非常に安上がりな作りのミュージック・ビデオです。総じてストームジーはこの「Shut Up」で、"既存のビートの上で即興ラップをした映像をインターネットにのっけただけ、その曲でスターになった" ということになるのです。これはまさしくグライムのDIYなアティチュードを体現しております。
『Gang Signs & Praers』では、この「Shut Up」も15曲目に収録されていますし、他にも「Cold」や「Big For Your Boots」などでBPM140のハードなビートに高速ラップを乗せるという、グライムの典型的な音楽スタイルを堪能することが出来ます。
2. リリックを通して
ロンドンのユースを知る
グライムはその当初からその発信地であるロンドンのストリート ―治安の悪いエリアや貧困層の多いエリア、移民の多いエリアなど― のメインストリームのポップでは語られない側面を中心に、若者の生活のリアルが描かれてきました。もちろんグライムの新たなキングと呼ばれるだけあって、ストームジーのリリックも興味深い。ただ彼の場合、「毎日が危険と隣り合わせでハード」、あるいは「現状の生活に対する不満」を吐くコンシャスな内容というよりは、毎日の生活の楽しみやスターMCとしての自分についてユーモアを込めて語ったものが多いイメージがあります。
全く聞いたことのない固有名詞が出てきたり、痛烈な皮肉があったりと、ギャングスタ・ラップのようなハードなものや、ドレイクのような女々しいもの、リル・ヨッティのような子供へと退化したものともまた違った、イギリスだから、ストームジーだからこそ聴けるリリックがここにはあります。
― Peng tings on my WhatsApp and my iPhone too ー
こちらは2015年のシングル「Know Me From」のヴァースです。冒頭から「Peng tings?」、「は?」と思ってしまいますが、「Peng Ting」とはイギリスで一部の若者が魅力的な女性に対して使う言葉らしく、このラインでは「魅力的な女の子たちがたくさんメッセージ送ってくるぜ」と言いたいようです。(こちらのビデオではこの曲へのファンからのリアクションに応えています)
― Ask that Morley’s man for more chips ―
こちらは「Wickedskengman Pt.4」から。「Morley」とはサウス・ロンドンにいくつかあるファスト・フード店でストームジーがよく訪れるお店らしいです。ストームジーは「ドラッグをやらない代わりに、Morley’sに行って£2のチップス(フライド・ポテト)を食べるぜ」とNoiseyのインタビューで語っていました。
この『Gang Sign & Prayers』でもGeniusでリリックを読みながら、イギリスのユースについて深くリアルに知ってみる、そんな楽しみ方も出来るのではないでしょうか。
3. ストームジーの新たな一面を知る
"グライムもストームジーもよく知っている" という人にもこの『Gang Sign & Prayers』にはたくさんの新しい発見があるはずです。ストームジーといえばグライム特有のハードなビートに、荒い息をそのまんま吐き捨てるような生々しいラップという典型的なグライムMCのイメージでしたが、このアルバムを聴いてくとサウンドのスタイルもMCとしてのスタイルも彼が今まで見せていなかった面が見えてきます。特に驚かされたのは甘いバラードやR&Bっぽいスムースなトラックの曲があること。単純に本作の客演陣にケラー二やラレイ・リッチーといったR&Bシーンの名前が見えた時点で、そういったエッセンスが加わること自体は予想できたものの、実際に聴いてみるとその大胆さに驚かされます。
例えば「Blinded by Your Grace」は優しいオルガンがベースになっていてゴスペルの影響を強く感じます。しかも注目すべきは「Through the darkness you came / And I’ll be alright with you by my side」という優しげなラインがあること。
また、90s R&Bテーストな「Cigaretts & Cush」はコーラスにリリー・アレン、ヴァースにケラーニを招聘することで一気に甘いスロウ・ジャムに。
これらを筆頭に他にもNAOのボーカルをサンプリングした「Velvet / Jenny Francis」、"天国にいるような気分にさせたかった" という「21 Gun Salute」、大好きな母に捧げたエモーショナルな「100 Bags」、ラレイ・リッチ―がソウルフルに歌う「Don’t Cry For Me」など、グライム的なハードな楽曲だけではない、ストームジーの新たな一面を楽しむことが出来ます。
コレは単にアルバムという16曲/59分の大きなフォーマットを使って、ストームジーがこれまで試してみたかった色々が形になった結果と考えるのが自然でしょうが、痛みや憂鬱、優しさとなど、グライムがこれまで積極的に扱ってこなかったトピックを扱ったという意味では、このアルバムは一つの革新的な作品になるかもしれません。
4. 『Gang Signs & Prayers』を通して
UKブラック・ミュージックのいまを知る
『Gang Signs & Prayers』には多数イギリスのヒップホップ/グライムMCやR&Bシンガーが参加しています。このアルバムを入口に、北米に負けじと力を見せつつあるイギリスのブラック・ミュージック・シーンのいまを知るのも、一つの楽しみ方でしょう。
まずストームジーと同じヒップホップ/グライム・シーンからは全英1位のシングルも持つスター、レッチ32(「21 Gun Salute」)、2003年から活動しているベテラン・グライムMCのゲッツや、アフロビートやレゲエの要素を取り込んだ若手ラッパー、J・ハス(「Bad Boys」)が参加しています。
そして、R&Bやソウルのシーンからは、ザラ・ラーソンとの「Never Forget You」が全英第5位の大ヒットを記録し、プロデューサーとしての腕もあるMNEK(「Blinded by Your Grace, Pt. 2」、あの「ゲーム・オブ・スローンズ」にグレイ・ワーム役として出演するなど俳優としてのキャリアもあるR&B/ソウル・シンガーのラレイ・リッチ―(「Don't Cry For Me」)が参加しています。
他にもトラックを担当したプロデューサーには、Sir Spyro(「Big For Your Boots」)、Swifta Beater(「Cold」)といったグライム・シーンではお馴染みの名前があるほかに、ロンドンのラップ・デュオ、クレプト&コーナンのプロデュースで知られるトラップ・プロデューサー、EY Beats、アデルやサム・スミスのグラミー受賞作のフレイザー・T・スミス(「Bad Boys」)、近年ダンス・ミュージックのシーンでメキメキと頭角を現しているムラ・マサ(「First Things First」)の名前にも注目です。
グライムのルーツを維持しながらも、ところどころで甘いR&Bや優しいバラードなど新たな一面も見せるこの『Gang Signs & Prayers』は、ストームジーのポテンシャルが存分に発揮された、2017年のイギリスのブラック・ミュージック・シーン最大の収穫物の一つとなるでしょう。この4つのポイントをカギにしてみれば、きっとあなたもこのアルバムを楽しめるはずです。
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前回の記事でも述べた通り、現在のポップ・ミュージック・シーンにおいてR&Bミュージックはその黄金期真っ只中です。
そして、年が明けてからの最大のビッグ・リリースはケラーニの全米アルバム・チャート初登場3位を記録したアルバム、『SweetSexySavage』で間違いないでしょう。
このアルバムはR&Bアルバムとして優れているだけでなく、シーンの新たなアイコンによる、ウェルメイドなポップ・ソングが並べられた「2017年最も重要なポップ・アルバム」にもなりそうなのです。その重要度で言えば、2014年のテイラー・スイフト『1989』や2015年のカーリー・レイ・ジェプソン『E・MO・TION』とも並べたくなるほど。今回はその、オークランドを拠点とするシンガー、ケラーニこと、ケラーニ・パリッシュの正式なデビュー・アルバムとなる『SweetSexySavage』が最高のポップ・アルバムである5つの理由を語ってみたいと思います。
1. ケラーニはネクスト・レベルへ達した
新世代フィメール・アイコンだから
本稿で扱うケラーニが先日リリースしたアルバム、『SweetSexySavage』は全米アルバム・チャート初登場3位の好発進を記録し、彼女は一気にR&Bシーンの新たなクイーンへと軽々躍り出ましたが、この成功の裏にはポップ・アーティストとして真っ当な間隔でその歩を進めてきた背景があります。そして、それは周囲の新進R&Bシンガーが簡単に成し得られていないことでもあります。
そもそもケラーニは、オーディション番組「America’s Got Talent」に出場したPoplyfeというバンドのシンガーだったという経歴はあるものの、ソロ・シンガーとしてのブレイクのきっかけは、『Could 19』とグラミー賞のアーバン・コンテンポラリー部門へのノミネートも果たした『You Should Be Here』という二つのミックステープです。ここを起点にその後の流れを追いかけてみると、これら二つの作品のリリースが順に2014年と2015年。そして、本格的に彼女が大衆の前で日の目を浴びることとなる、サイケデリックなトラップ・ビートの上でギャングへの愛を歌った「Gangsta」での映画『スーサイド・スクワッド』サントラへの参加が2016年。正式デビュー・アルバム『SweetSexySavage』のリリースが2017年明け。つまり、彼女はシーンに登場して以来一年ごとに着実なステップを踏んできたということがわかります。
ミックステープ『You Should Be Here』のタイトル・トラック
実はケラーニと同時期にブレイクの鍵を掴みかけたシンガーは他にも何人かいます。しかし、彼女たちはケラーニに比べればその後の決定的な一打が中々掴めていない様子。例えば、DJマスタードのビートの上でScHoolboy Qと共演したスマッシュ・ヒットと「2 On」、それを収録したアルバム『Aquarious』でブレイクしたティナーシェは、来日も果たすはずだった「Joyrideツアー」が制作に専念するため打ち切られ、更にその当の新作『Nightride』は全米89位止まり。また、2013年にミックステープ『Cut 4 Me』でブレイクしたケレラは、引き続きアルカらアンダーグラウンドのプロデューサーとタッグを組むことで自身の神秘的な持ち味をキープしたままだし、ケンドリック・ラマーら所属のTDEで唯一の女性アーティストとして2013年のレーベル契約以来ずっと注目され続けてきたシザー(SZA)はデビュー・アルバムのリリースが2017年まで約4年かかってしまいました。
ティナーシェ「2 On feat. ScHoolboy Q」
こうしたアーティストたちの現況を見てみれば、ケラーニが一度シーンの注目の目を惹いてからいまのポジションに達するまでのステップの踏み方は百点満点と言いたいほどにお見事と言えますし、この『SweetSexySavage』によって彼女は正真正銘、現在のR&Bシーンの中でネクスト・レベルに達したアーティストになったということがわかっていただけるでしょう。
ケラーニ「Gangsta」
2. “SweetSexySavage” こそが
ケラーニ・パリッシュという人物だから
前項でケラーニはいまのR&Bクイーンの地位に「軽々」到達したと書きました。ただ、勿論彼女が苦労していないなんて言うつもりはありません。プライベートでも昨年は自殺未遂なんてこともありましたしね。彼女はいまの名声を得るまでの間、多忙な日々をこなす強いメンタリティがある一方で、勿論プライベートでは繊細さがあったり、恋愛においてのセクシーさあったりと、様々な面を持っている一人の女性であり、一人の人間なのです。そして、それは本作のリリックに現れており、まさしくそれが本作のタイトル、『SweetSexySavage』を体現しています。
ケラーニ「Advice」
例えば作中には、恋愛における彼女の傷つきやすさを正直に述べた「Keep On」や「Escape」、「Advice」といったスウィートな楽曲があり、一夜限りの関係を匂わせる「Distraction」があり、打たれ強さを見せる「CRZY」や「Do U Dirty」、「Personal」もあります。つまり、このアルバムにおいて彼女は、そのタイトルの通り「私はスウィートにも、セクシーにも、サヴェージにもなれる人間だ」と宣言しているのです。更に、実際に語られているストーリーや感情は普遍的なものが多く、それらは多くの若者が成長過程で経験するようなものとも言えるのではないでしょうか。
ケラーニ「Distraction」
ケラーニ「Do U Dirty」
アーティストとして、女性として、一人の人間として、彼女の持つ「Sweet」、「Sexy」、「Savage」という様々な面を臆面なく正直に述べた本作のリリックは、彼女の魅力をより引き立たせます。
3. 「Undercover」は
2017年最高のポップ・ソングだから
ケラーニ「Undercover」
まだ2017年も2ヶ月しか経過しておりませんが、これだけは断言したいです。この『SweetSexySavage』に収められた一曲、「Undercover」は2017年最高のポップ・ソングです。BPM145の軽快なビートに乗ったこの曲は、この素晴らしいポップ・アルバムの中でも飛びぬけてキャッチーな一曲。では、何故この曲がポップ・ソングとしても最高なのか。それはこの曲が優れたポップ・ソングの方程式に乗っ取っているからです。私なりの優れたポップ・ソングの方程式の解は、「?シンガロングできるようなキャッチーなフックやメロディ・ラインを持つこと、?普遍的なテーマを扱ったリリック、?過去のお手本からの大胆な引用」の3本です。他にもう一つあるとするなら、「象徴的なリフレインの繰り返し、つまりループ/円環を持った楽曲構造」でしょうか。
ではそれが「Undercover」ではどうなのか。まず?は紛れもなくメロディ・ラインがキャッチーですし、「One way or another〜」で始まるコーラスではビートが無くなったところに、同じフレーズがスムースに繰り返され強いフックになっていますし、?は自分と恋人との関係を認めようとしない周囲へ “Fuck it!”と宣言するようなテーマからして、十分にユニバーサルなトピックの形を取っていますし、それによって、昨日までケラーニと何の繋がりもなかった他者にさえ語りかける可能性をしっかり持っています。
で、ここで肝心なのは?です。これについては「Undercover」がどんなパフォーマンスを取っているかに移る前に、この解について2015年と2016年のそれぞれのメガヒットで例えてみましょう。
まず2015年のマーク・ロンソン&ブルーノ・マーズによる「Uptown Funk」(リリースは2014年末)が80年代のミネアポリス・サウンドのファンク・グル―ヴをそのまんま持ち込んでいたのはわかりやすいでしょう(ポップ・ミュージック史上最も不名誉な「Blurred Lines」訴訟の影響によってザ・ギャップ・バンドのメンバーが後からクレジットされることになったことは忘れてないけど)。
続いて昨年全米12週連続1位を記録したチェインスモーカーズの「Closer」。こちらは00年代に職人芸のようにアダルト・ポップの特大ヒットを生み出したバンド、ザ・フレイの感傷的なメロディをなぞっています(こちらも後からフレイのメンバーの名前が「Closer」のクレジットに載りました)。
ここからわかるのは、広く大衆に受け入れられる大文字のポップ・ソングの多くは、その時々のトレンド(ここではEDM的な構造とプロダクション)をベースにしながらも、過去のお手本を研究して何かしら盗んで来ているということ。時代を彩るポップ・ソングほど元ネタのようなものの力に助けられているし、だからこそタイムレスな輝きを放っているのです。そして、そうした大胆な引用の連続によってこそポップ・ミュージックの未来が作られるのでしょう。だからこそ、「ポップ・ソング」というのはダイナミックな表現方法でもあります。勿論、リアーナの「SOS」や「Don’t Stop The Music」、ビヨンセとジェイZの「Crazy in Love」、ブリトニー・スピアーズの「Toxic」、M.I.A.の「Paper Planes」といった楽曲も一緒です(こちらでくわしく)。
だいぶ脱線してしまいましたが、?の解についてケラーニの「Undercover」の場合は、ヴァースからエイコンの2007年のヒット「Don’t Matter」を、メロディは少しばかりトラックに合わせて歌いやすいよう変えているものの、リリックは「Nobody wanna see us together / But it don't matter no / 'Cause I got you babe babe」というラインをそのまま引用しています。この引用が行われたのも両者のリリックのテーマがほとんど同じだからではあるものの、当時ゲイ・アンセムとしてもウケていたレゲエ調のこの曲を持ち込むことで、聴き手の想像力がより拡がるとともに、過去のポップ・クラシックがケラーニを通してアップデートされています。
こうした引用がなされるのもケラーニの熱心なポップへの探究心があってこそ。2015年のThe Faderのインタビューで彼女の口からこんなことが語られていました。
「ソングライターとしてメロディやフック、タイミング、パターン、ワードプレイをブレイクダウンしている。マックス・マーティンで勉強しているの。」―
大文字のポップ・ソングの方程式の解き方をなぞった「Undercover」は間違いなく2017年最高のポップ・ソングであります。ただ、特に?の「引用」については、この曲はアルバム中のあくまで一つの例に過ぎません。次のパートでより深く語ってみましょう。
4. R&Bの歴史を横断する
ダイナミックなアルバムだから
ケラーニがミックステープで頭角を現した新世代R&Bアイコンであること、例えば2曲目の「Keep On」がイギリスのNAOを思わせるファンク・トラックであること、そして当然のように現行ポップ・ソングのスタンダード=トラップのビートが鳴っていることからして、自然と本作はモダンなプロダクションのR&Bアルバムであると錯覚してしまうかもしれません。ただ、タイトルの『SweetSexySavage』が1994年のTLCのブレイク作『CrazySexySoul』からの引用であるように、本作はあらゆるところにR&Bの歴史の断片が散りばめられている、ダイナミックな作品であることも忘れちゃいけません。
まず分かりやすい例を挙げるなら、ボーイ・バンド、ニュー・エディションの1988年「If It Isn’t Love」のコーラスを冒頭に乗っけた「In My Feelings」や90年代後半のR&Bアイコン、アリーヤをサンプリングした「Personal」があります。
他にも「Too Much」のリズム・ワークはティンバランド印の、細かく刻まれながら揺らつくあのドラム・ビートを思い出させますし、「Personal」でラップしながら歌う姿は、そのティンバランドのプロダクションとのタッグでお馴染みミッシー・エリオットの姿を思わせます。
つまり、本作からは至る所に90年代中ごろから00年代初めにかけての「 "R&B" が "ポップ" の同義語であった時代」のエッセンスが感じられるのです。コンテンポラリーR&Bミュージックの歴史をなぞり、前述のモダンなプロダクションを駆使してアップデートすることによって、このアルバムはタイムレスな輝きを放つとともに、あらゆる世代に引っ掛かり得るようなポテンシャルも持ち得ているといえます。
5. 『1989』、『E・MO・TION』と並ぶ
最強のポップ・アルバムだから
ここまで語ってきたところをまとめると、この『SweetSexySavage』は主にプロダクションの面でのコンテンポラリーR&Bミュージックの歴史のアップデートを、大胆にもポップ・ソングの形式を取りながら成し遂げているということになりそうです。そして、その “ポップ・ソング” は本作の17曲(冒頭はポエトリー・リーディングの形式)全てに対して言えることであり、こうして全編が上質なポップ・ソングで溢れているからこそ、17曲/58分という長さでありながら、リスナーを簡単に疲れさせないのもこの作品の強さです。
こうした強度を持ったアルバムを2010年代のポップの歴史で思い出してみれば、テイラー・スイフトの『1989』、カーリー・レイ・ジェプセンの『E・MO・TION』が直ぐに浮かんできます。
テイラー・スイフト『1989』収録の「Shake It Off」
カーリー・レイ・ジェプセン『E・MO・TION』収録の「Run Away With Me」
どちらも主にそれぞれの恋愛体験を独特の語り口で述べながら、それぞれエレポップや80年代のネオンな輝きを持つポップ・ミュージックたちを、最先鋭のライター/プロデューサーたちの力を借りながら最高品質でアップデートしていました。更に付け加えるなら、客演アーティストの力をほとんど借りずに自らを主役に引立てアルバムを完成させたという意味でもこの2枚は、『SweetSexySavage』の横に並べたいアルバムです。
2017年に産み落とされたケラーニの『SweetSexySavage』は、こうしたポップのクラシックとも肩を並べることが出来る、最高のポップ・アルバムなのです。是非2017年のあなたのサウンドトラックにしてみては如何でしょうか。
アルバムのリード曲ともいえる「CRZY」
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「いまR&Bは黄金期にある。2016年はその最も強力な一年だった。」―とは昨年末のガーディアンの記事の見出しです。どうでしょうか。確かに昨今のポップ・ミュージックを牽引しているように見えるジャンルは、ケンドリック・ラマー、チャンス・ザ・ラッパー、ドレイク、ミーゴスらがストリーミングが反映されて以降のチャートやフェス、アワードなど様々な場所で王座に居座り、ここ日本でも空前のブームとなっているとおりラップ・ミュージック/ヒップホップかもしれません。ただ、もちろんヒップホップというジャンルは特に90年代以降あらゆる意味でR&Bというジャンルとも共にあったはず。ともすれば、ヒップホップに連動するかのようにR&Bというジャンルのいまも面白い状況にあるはず、と考えるのも無理はないはずです。いまやヒップホップもR&Bも、例えばマイク・ウィル・メイド、DJマスタードやメトロ・ブーミンのような同じプロデューサーがトラックを作るのが当たり前になっていることからもわかるように、この二つのジャンルが地続きで繋がっている様は、これまで以上に鮮明になっています。そして何より、2015年のベスト・アルバムの定番がケンドリック・ラマー『To Pmip A Butterfly』だったのに対し、2016年のそれはビヨンセ『Lemonade』、ソランジュ『A Seat at the Table』、フランク・オーシャン『Blonde』でありました。
実際、いまのR&Bに目を移してみれば、サウンド、リリックなどその表現の幅広さ、世界各地から新顔が群雄割拠する様からして、一般的に語られるところの黄金期=90年代に匹敵するどころか、それ以上の面白い時代に突入しているように思えます。総じて、ガーディアンの記事タイトルは大袈裟でもなく、2016年のポップ・ミュージックの最も重要なテーマの一つを的確にとらえたものだったのだ、ということです。
今回は数回の記事に分けながら、R&Bシーンの現況を確認していきながら、年明けにあったリリース・ラッシュや今年活躍が期待されるブライテスト・ホープをピックアップし、引き続き黄金期といえる状態が続くと思われるR&Bミュージックの2017年について展望していきます。
ブラック・ライブス・マターへの共鳴、
表現の壁を取っ払ったトップ・アイコンたち...
ディアンジェロ、ケンドリック・ラマー、コモン…。ここ3年ほど、ヒップホップ界からはアメリカでの警察官からアフロ・アメリカンなどマイノリティへの暴力行為への一連の抗議運動=ブラック・ライブス・マター・ムーブメントへのレスポンスが盛んに作品に反映されましたが、2016年はその声が、そうした動きが、ヒップホップだけでなく、R&Bミュージックからもより多く見られた一年でした。
ビヨンセ『Lemonade』やアリシア・キーズは勿論のこと、嘆き、悲しみに同調するメディテーションとしてビヨンセとは対照的な方法を取ったソランジュ『A Seat at the Table』や、ブルース・スプリングスティーン「Born in the USA」へのアンサー・ソングでありながらも、アメリカ社会が動いた歴史的シーンを切り取ったMV、「Breathe out, breathe in」というリリックの繰り返しによりエリック・ガーナ―の窒息事件にコメントした「American Oxygen」のリアーナ(この曲のリリースは2015年)はその筆頭ともいえます。
そして、これらの作品の多くは、ケンドリック・ラマーらがそうであったようにそのサウンド・プロダクションもまた素晴らしかったことで2016年を代表する一枚となりました。特にビヨンセ、リアーナといったこれまでアメリカのメインストリーム・ポップスのセンターにいたクイーンたちの冒険的なサウンド・アプローチは、彼女たちにとってのこれまでの表現の壁を取っ払い、シーンのトップ自らがポップやR&Bの新たなお手本を提示する形となりました。だからこそ、「2016年はインディやアンダーグラウンドよりも、ポップ音楽そのものが一番面白かった」ということが言えます。もちろんビートを極限まで排した挑戦的なプロダクションによってR&Bミュージックの常識を覆してしまったフランク・オーシャン『Blonde』も忘れてはいけない。
ドレイク、ザ・ウィーケンド以降の新たな表現が花開いた
そもそもR&Bミュージックが新たな革新的な動きを見せたのは2000年代の終わりごろから〜2010年代の初めにかけて。そして、中でもこの期間に登場したドレイクとザ・ウィーケンドという2人のアーティストの影響力はご存じのとおり。前者は歌とラップの境界を曖昧にし、また独特の女々しくも優しいリリックによって、後者はポーティスヘッドやスージー・アンド・ザ・バンシーズをサンプリングするようなそれまでのR&Bミュージックからは想像もつかない圧倒的なダウナーなムードを駆使しながら、R&Bの新たな表現の時代を宣言しました。私もそれまでR&Bミュージックというと何か、「同一のフォーマットの上で似たような表現が繰り返されている」といった偏見を抱えがちでしたが、この2人の登場によって、その偏見は簡単に崩れ落ちていきました。
それ以降、主にドレイクのレーベル=OVO Sound周辺を中心にこの2人の空気感を共有するシンガー・プロデューサーが多数登場しましたが、特にマジッド・ジョーダンやdvsn(ディヴィジョン)のデビュー・アルバムの発表を筆頭に彼らのフォロワーの存在感が目立つ昨今の状況からは、ドレイク、ザ・ウィーケンド以降が築いた新たなR&Bフォーマットが完全に実を結んでいるとういことが言えましょう。
アンダーソン・パック、チャイルディッシュ・ガンビーノ...
シーンにいる無数の才能たち...
もちろん、R&Bで活躍するアーティストはここまで挙げてきた名前だけに留まりません。新たな「黄金期」というからには、キリが無い程多数の才能が群雄割拠しているのです。
北米からは、ファンク、ソウル、ディスコなどをそれぞれの方法でアップデートしたKINGやアンダーソン・パック、BJ・ザ・シカゴ・キッド、チャイルディッシュ・ガンビーノ、更にシーンのライジング・アーティストを多くフィーチャーし、ビートメーカーとして自身の記名性高いバウンシーなビート感を生かしながらそれを行ったケイトラナダ、よりサイケデリックな方向にシフトした大ベテランのマックスウェル、エモーショナルな「Weight in Gold」を携え一気にネクスト・ビッグ・シングとなったガラント、チャンス・ザ・ラッパーのSaveMoneyクルーのすぐ側でその空気感や視点を共有するジャミラ・ウッズ、先鋭的なエレクトロニカのプロダクションの上で歌うドーン・リチャード、インディR&Bの旗手=ブラッド・オレンジなどなど。
そして、ここ数年は完全にポップ・ミュージックの中心地をアメリカに奪われていたイギリスからも、ビヨンセやカニエ周りの仕事を反映したジェイムス・ブレイク、ボーカル・スタイルは90年代のフィメール・アーティストの系譜でありながらもMura Masa、FKA Twigsらの楽曲のモダンなビート感とも重なるNAOや、ナイル・ロジャースの参加でディスコへも舵を切ったローラ・ムヴーラ、ディアンジェロのバックを務めるピノ・パラディーノや、マーカス・ミラー、エスペランサらを起用したコリーヌ・ベイリー・レイ、そして先日デビュー・アルバムをリリースしたサンファがいます。
もちろん、ジャンル横断的な動きが多い先述のアーティストたちに対し、トラップ・ビートの上で歌うブライソン・ティラーやフェティ・ワップ、トーリー・レーンズ(ブライソン・ティラーのアルバム・タイトルとも紐付けてこれらのアーティストたちの音楽を一部では"トラップ・ソウル"とジャンル化する向きも)、さらにベテラン、アッシャーやジョン・レジェンドといったより従来からのR&Bのメインストリーム・シーンに位置するシンガーの安定感ある作品のアウトプットもこうしたR&Bの幅広い豊かさを支えているし、ケラーニ、ジェネイ・アイコ、ティナーシェ、ケレラといったこれからこのジャンルのアイコン的地位を目指していこうという女性シンガーたちの動きも見逃せません。
欧米と同時進行するアジア・シーン
最後に忘れちゃいけないのはこうした状況に呼応するアジアのシーンです。特に先行していくつかのヒップホップ・アーティストがアメリカでも人気を獲得している韓国では、R&Bも同じように熱を帯びています。ブームバップっぽい90年代のスタンダードなビートから、ブライソン・ティラーのようなトラップとケイトラナダのようなバウンシーなビート感も併せ持ったDEAN(サイケデリックになった様はミゲルとも重なります)やCrushはその筆頭。そんな状況からは、アメリカのポップ・ミュージックとの距離を縮めてきたK-Popが、80年代以降のよりオーセンティックなR&Bミュージックの歴史と完全に交わった瞬間として、益々新しいことが生まれていきそうな息吹を感じずにはいられません。また、アッシャーやジェネイ・アイコをフィーチャーしたアルバム『Chapters』がビルボードやローリング・ストーンのベストR&Bアルバムの一枚に選ばれたマレーシアのシンガー、ユナの名前も挙げておきましょう。
ここまで振り返ってみたような、暗澹たる不安を抱えた社会へのレスポンスや、当然のようにジャンルや歴史を横断する冒険的なプロダクション、そして地域性の幅の広さなどあらゆる要素を考慮してみれば、いまの時代のR&B=黄金期という説にはもう疑問が無いでしょう。
次回は、年明けにあったリリース・ラッシュからケラーニの『SweetSexySavage』をピックアップし、R&Bアルバムとしてだけでなく、「ポップ・アルバム」として如何に優れているかを紐解いていきます。
]]>だが確かにアメリカのランドマークたちとも交錯している
空を見上げてごらん、陽の光が見えるでしょう。とても高くに。
闇にはさよならして、愛へおかえり。
目を覚まして暗闇が少しずつ消えていくのを見てごらん
夜明けの間寝て、朝になるとキミがやってくる
いま僕は美しい一日に捕まえられて、太陽はキミがそうしてからずっと輝いている
昨日は去ったよ
このアルバムを最後まで聴き終え、このシークレット・トラック「Yesterday’s Gone」 ―亡くなった最愛の継父が密かに録っていたオリジナル曲。それを聴いたロイル・カーナーが母親のコーラスを被せさせて出来た。「もう一度二人を一緒にさせるため」のアイディアだという。― と出会ったとき、あなたの心は優しい愛でいっぱいにならずにはいられないだろう。
***
2016年にブラック・ライブス・マターともメインストリームのトラップとも直接的には交わらない場所から産み落とされた2つのレコードの輝きは年が明けても忘れられていない。フランク・オーシャンの『Blonde』とチャンス・ザ・ラッパーの『Coloring Book』だ。前者は、自分自身と徹底的に向き合いながらパーソナルな葛藤を素直に曝け出し ―その葛藤は4年前のそれよりもずっと複雑になりながらも―、後者は家族や周囲のコミュニティと向き合い続けながら愛や喜びを見出し、それらをポップ・ミュージック史のあらゆる美しき断片と結びつけながらアウトプットした。この2つのレコードに大いに感動したあなたが次に手にすべきは、海を隔てた英国から届けられたこのロイル・カーナーの『Yesterday’s Gone』だ。名のあるコラボレーターは登場せず、あくまで彼の身近な仲間との共作。音楽的な参照点も良い意味で統一されているため、前述の2作ほどのダイナミックさはない。だが、ここにはオープンで、素直で、エモーショナルで、悲しみで溢れながらも同時に、愛や喜びで満ち溢れたポジティブさもまた同居している。
***
確かにこの21歳の青年、ロイル・カーナーはラップ・ゲームには参加しちゃいないし、この作品自体はトレンドからはかなり距離を置いた場所から生まれた作品という認識で間違いないだろう。作品全体のベースは、トライブ・コールド・クエストやナズ、コモンといった90年代のアメリカのヒップホップ・アーティストのトラック直系の柔らかく、ジャジ―なビートで、時にブームバップの感覚も想起させる。
同じイギリス国内のシーンを見渡してみれば、ここ3年くらいは本格的にグライムが力を取り戻し、昨年はスケプタ『Konnichiwa』がマーキュリー賞を受賞し、カノーの『Made In The Manor』も合わせてノミネート(両者はブリット・アワードにもノミネートされている)、更にはストームジーやノヴェリストのような若手も台頭中だ。また、グライムでなくても、ヒップホップではクレプト&コーナン、セクション・ボーイズ、J・ハスなど個性豊かな才能が凌ぎを削りつつある。ただ、そのグライム・UKヒップホップも、カニエのフックアップ、ドレイクやA$AP Mobらとの共演を通し、いまや上手くUSのトラップのビートのスタイルを取り込みながら発展をしているし、UKヒップホップ旧来のジャマイカ、アフリカ由来のある独特のサウンドは、いまやダンスホール、リディムといった世界的なメインストリームの流行とあまり境界の見えづらいものになっており、段々と「UKっぽいもの」ではなくなってきている。こんな状況に思いを巡らしてみた時には、グライムの肌触りが無く、トラップとの交錯やアフロ・ビート的なモノへの畏敬もサウンドから汲み取れないこのレコードこそがいま最もわかりやすくUK的なラップかもしれない。
ただ、注目すべきはこの心地よいビートや、英国の曇り空を思わせる内省的な雰囲気だけでない。リリックはとことん正直に曝け出され、そのテーマやトーンは彼のアメリカで生まれたあの2つのレコードとも並べたくなるものであり、普遍的でもあるのだ。
***
『Yesterday’s Gone』発表よりだいぶ前に世に放たれ、本作には収録されることのなかった2つの作品がわかりやすく彼を表していた。2014年に発表された「BFG」と「Tierney Terrace」の2曲だ。そして、このアルバムを読み進めていくと、本作はそうした初期の作品の延長上にあることがわかる。
彼にラップ・キャリアを邁進させたのは継父の死だ。2014年の「BFG」では「Everybody says I’m fuckin’ sad/ Of course I’m fuckin’ sad, I miss my fuckin’ dad」とあまりに生々しかった。だが、本作では、オープニングの「The Isle of Arran」からその継父だけでなく、幼いころに自分と疎遠になった父親、そしてこの曲のタイトルにも繋がる祖父とのアラン島での思い出についても、同じく幼いころに父が失踪している境遇まで同じ、アメリカのストーリーテラー、J. Coleのようなトーンを駆使しながら歌われる。
Uh, uh, look
Uh, no, I don't believe him
Uh, but know that I've been grieving
Know that I've been holding out, hoping to receive him
I've been holding out for G but he was nowhere to be seen when I was bleeding
恐れることなく悲しみを表明するカーナーに、バックからゴスペル・クワイアが「The Lord will make a way / And when I get in trouble」と光への入り口を授けようとする。カーナーのトーンと比べてみれば、このギャップを以てしてこのクワイアの歌声は皮肉にも感じられてしまうほどだ。他にもがんと闘った友人の母親を扱った「Mrs. C」、リレーションシップにおける「失うこと」を扱った「Damselfly」、どれもが赤裸々で、素直に綴られている。
遅くまで働きに出ていた母親に代わって面倒を見てくれたおじいちゃんとの記憶。理由もわからず幼少期に自分の下を離れていった父親。その父に代わって、自分のロールモデルとなろうとした最愛の継父の死。難読症やADHDを患った少年期。そう、彼のラップをモチベートするのは、二度と手にすることの出来ないものを失った悲しみや、闘わなければならなかった苦悩。メディテーションのようなスロウで優しいビートに乗せられ、低いトーンでそれらの言葉は吐き出される。それはさながら、か細い声で届けどころのない自らの愛を歌うフランク・オーシャンのようであり、フランクにそのような表現を可能にさせるプラットフォームを築いた『808s & Heartbreak』でのカニエ・ウエストよろしく、カーナーはパーソナルであり過ぎること、エモーショナルであり過ぎることを恐れはしない。
ここまで書くとこのアルバムが悲しみでいっぱいの作品のように読めてしまうかもしれない。だが、カーナーがそんな人生の中で身に付けたものは深い慈愛だ。失ったものに浸っているだけではいけない。他にもカーナーには支えねばならない大切な家族がいる。継父を失った直後に書かれたもう一つの楽曲、「Tierney Terrace」では若くして家族を背負わなければならなくなった時の葛藤が綴られていた。母・ジーン、弟のライアン、そしてブラック・プードルのリンゴをそのまま出演させたミュージック・ビデオは継父の穴を埋めようとした彼の努力の形としての愛が巧みに表現されていた。同様に彼はこの『Yesterday’s Gone』において、時にごく普通のユースとしてパーソナルでありながら、時に家族を支える優しく勇敢な青年にもなる。多くの楽曲にはその優しい愛が同居しているのだ。
「Florence」は持つことの出来なかった架空の妹に対しての愛の歌だ。「俺と同じようなそばかすがあって、でも背は低くて / ソファーで寝てる俺に彼女がタックルしてきたら、くすぐり返すんだ…」と始まり、「パンケーキを作ってあげる」(ミュージック・ビデオでもカーナーはパンケーキを作っている)約束もしている。彼女が「空には終わりがある」と言っても「二人なら何もリミットはない。空も果てしなく見える」とまで語って見せる、甘い優しさいっぱいの歌だ。ここでの妹への愛は、娘を愛する父のようだし、作中での母とのやり取り(「Swear」では二人の会話がそのまま収められた)も含めて実際凄くヒップホップ的な愛の形である。だが、繰り返すように、そのメディテーションのようなスロウで優しいビートだからこそ、彼の優しさはより特別なものに聴こえて仕方ない。
ロイル・カーナーの優しさは彼の音楽以外の課外活動―ADHDの子供たちへの支援としての料理教室―という取り組みにも現れていた。そして特筆すべきはNoiseyのインタビューでADHDであることについて、「ネガティブなことではない。これはむしろSuper Powerだ」と語っていたこと。彼の優しさには、ポジティブさが隠れており、それは作中でもプライベートでも一貫しているのだ。
『Yesterday’s Gone』で味わうことの出来るカーナーの優しさは、「Cocoa Butter Kisses」や「Sunday Candy」で顕著なように、過去の出来事や甘い思い出を、愛と喜びで表現するチャンス・ザ・ラッパーと、その「優しさ」の密度においては決して大きく変わりがないだろう。
本作は勿論単にパーソナルなだけでなく、個人が味わう体験でありながらもより普遍的なトピックも忘れない。学生ローンが懐かしい「Ain’t Nothing Changed」、自身のミュージック・ライフをネタにした「No CD」。喜びや悲しみの形は人それぞれあれど、結局のところ本作は誰でも馴染めるようなトピックも秀逸だ。
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この、マチズモは捨てられ決してボースティングすることもない、内省的な吐き捨てるようなフロウの傾向は、ルーツ・マヌーヴァ〜マイク・スキナー(The Streets)といったUKラップの伝統的な歴史の系譜にも重なるだろう。ルーツ・マヌーヴァのセカンド・アルバムがアークティック・モンキーズのファースト・アルバムのレコーディング時にメンバーに最も聴かれ、マイク・スキナーはそのアークティック・モンキーズのアレックス・ターナー同様、00年代のUKの最高のリリシストであったことを思い出せば(そして、こうした時代だったからこそ他にもゴリラズ、ジェイミー・Tなどの作品がこの国から生まれた)、このグライムやUKラップからは距離を持つ『Yesterday’s Gone』もまた、もしかしたら停滞するインディ・ロック青年たちに新たな突破口を与えるかもしれない。カーナーの声自体は強くなくとも、この作品が英国の音楽シーンに思わぬ大きな息吹を与えるだろう。だが、それは残酷なことに2016年のインディ・ロック・シーンを思い出してみても、年明けに発表されたSundara Karmaの『Youth Is Only Ever Fun In Retrospect』を聴いてみても、ちょっと期待しすぎに思えるかもしれない。
しかし、そんなことよりもこのパーソナルでありながらも普遍的な表現はもっと大きいスケールで共有される可能性を持っている。幅を広げれば、2016年はカニエ・ウエストやビヨンセも再び家族や自分の実生活と向き合った。『Yesterday’s Gone』は、素直で、パーソナルでありながら、悲しみとポジティブな愛が同居することによって、不穏な社会情勢に皆が不安を抱える2017年にどこかでリンクし合う。この作品はUKラップの表現の幅を一気に広め、グライムやトラップと寄り添う現行UKラップとはまた違った形でアメリカとも繋がった。これは昨年のポップ・ミュージックの2つの賜物、フランク・オーシャンやチャンス・ザ・ラッパーのアルバムとも交錯するユニバーサルな表現なのだ。
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